前々回は、全固体電池の種類、特徴について解説し、前回は材料の性質に触れながら全固体電池の種類ごとの課題や活用先について紹介した。今回は電力貯蔵用蓄電池の役割、課題、全固体電池の展望について解説する。
カーボンニュートラル社会実現のためには、再生可能エネルギー(再エネ)を積極的に導入することが望まれているが、これらによる発電は天気任せで変動するため、電力系統の不安定化が懸念される。そこで再エネで発電した電気を、一旦、電力貯蔵用蓄電池へ蓄電することで、計画的な需給調整が可能になると期待されている。
電力貯蔵用蓄電池として利用されているリチウムイオン電池やナトリウム硫黄電池では、消防法規制の材料を利用し、広大な設置面積が要求されるため、都市部への設置が難しい。そのため、ほとんどの電力貯蔵用蓄電池は、電気を消費する都市部から遠く離れた山間部や沿岸部に設置されている。今後、再エネが大量導入されると、蓄電池から都市部への送電線の増強が必要となり、その増強に膨大なコストがかさむ。加えて、建設にもかなりの時間を要するため、何らかの対応が必要である。そこで、消防法の規制を受けない高安全な材料を用いた全固体電池を、例えば都市部の地下に置くことで、コストを抑えた地産地消型の都市設計が可能になる(図)。
図 地産地消を目指して都市部地下に設置した酸化物型全固体電池の活用例
電力貯蔵用蓄電池として求められる条件として、電動車で求められる高エネルギー密度や高出力密度よりも、まず高安全、長寿命、低コストが挙げられる。電力貯蔵用蓄電池はかなり大規模であり、出火すると消火に時間を要し、停電影響も広範囲に及ぶため、高い安全性が必要である。さらに発電所と同様の使用年数が想定されるため、数十年に及ぶ寿命も要求される。また蓄電システムで現状MWh級、将来的にはTWh級の容量の導入が想定されるため、Whあたりのコストを下げることが望まれる。
高い安全性や空気中での安定性を有する酸化物型全固体電池は、高安全、長寿命、低コストを実現できる潜在能力を持つ電池と考えられる。しかし現状では、指先サイズ程度の酸化物型全固体電池しか、市販されていない。酸化物型電池を大きくすると電池内に亀裂が入りやすい、設計容量が得られない、寿命が短い等の問題が生じるため、今後の課題は酸化物型電池の大型化である。課題解決のための取り組みとして、例えば、柔らかい材料や少量の液体を添加する、元素置換により酸化物を軟化する、作製方法を改良する等が挙げられる。
全固体電池は、従来の蓄電池にない長所を有しながら、実用化には多くの課題を有することを、これまで触れてきた。車載用途では、自動車会社が国の支援も取り入れながら積極的な電池開発を行っている。車載用途と電力貯蔵用途では求められる条件が異なるため、各用途に適した電池開発が必要である。電力会社が自ら電池開発を行っていないものの、全固体電池による電力貯蔵は、未来の電気事業へ貢献する技術である。国の支援を活用しつつ、高安全な全固体電池の開発を実施する枠組みが実現することを期待し、3回にわたる連載を終えたい。
電気新聞 2022年9月14日掲載