電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(265)
全固体電池とは何か?どんな分野で利用されるのか?

全固体電池の構成と種類

電池の基本構成材料は、正極、負極、電解質であり、蓄電に直結する材料は正極と負極である。電解質は、蓄電に直接寄与しないものの、電荷であるイオン(リチウムイオン電池だとリチウムイオン、ニッケル水素電池だと水素イオン)を正極と負極の間で運ぶ、電池にとって欠かせない材料である。リチウムイオン電池やニッケル水素電池では、電解質として電解液を使用している。全固体電池では、電解質として固体材料(固体電解質と呼ぶ)を使用し、正極、負極、電解質が全て固体材料であるため、全固体電池と呼ばれている(図)。

図

図 液系電池(リチウムイオン電池)と全固体電池の構成図

全固体電池の固体電解質には、複数の種類がある。硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質、高分子系固体電解質が、主要な固体電解質である。このなかで硫化物系固体電解質を用いた全固体電池の開発が、最も積極的に行われている。その理由は、固体電解質内のリチウムイオンについて、リチウムイオン電池の電解液よりも高速に動く材料が見出され、全固体電池の特徴を生かした電池開発が大きく進展したからである。

全固体電池の特徴

全固体電池の特徴は安全性である。リチウムイオン電池で利用されている電解液は有機物で構成され、気化しやすく可燃性である。正極と負極が接触すると、電池内の電気エネルギーが熱エネルギーへ代わり、電池温度が上昇し、電解液から気体が発生し、密閉構造のリチウムイオン電池が破裂・発火する場合がある。一方、全固体電池では、有機物の電解液より燃えにくい固体材料で構成されているため、電池の破裂や発火はほぼ起きず、全固体電池の安全性は高いと考えられている。電池の安全性が高まることで、リチウムイオン電池で利用されている正極や負極よりも高いエネルギー密度の正極や負極を、全固体電池で利用することができる。さらに、固体電解質内をリチウムイオンが高速に動くことができるので、安全性以外に電池の高出力化が可能となる。

全固体電池の活用が最も期待される分野

電気自動車などのモビリティでは、限られた空間に蓄電池を置く必要がある。電気自動車の普及のためには、現行の電気自動車に利用されているリチウムイオン電池より、高エネルギー密度化した蓄電池が必要である。リチウムイオン電池よりも高いエネルギー密度をもつ全固体電池を、モビリティの電源として活用することで、走行距離の延伸が期待できる。また、高出力性能も生かして、充電時間の短縮も期待されている。NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)で設定されたグリーンイノベーション基金事業において、次世代蓄電池・次世代モーターの開発を開始しており、電気自動車の普及に向けて高性能な蓄電池の開発が進んでいる。日本の自動車会社でも、2025年~2030年の間に、主に硫化物系固体電解質を用いた全固体電池の搭載の自動車販売を計画している。今後、自動車だけでなく船舶や飛行機への全固体電池の活用も想定される。次回以降は、硫化物系固体電解質以外の全固体電池の特徴や電力貯蔵用蓄電池への活用について解説する。

著者

小林 剛/こばやし たけし
電力中央研究所 エネルギートランスフォーメーション研究本部 上席研究員
2008年入所、専門は固体化学、電気化学、博士(工学)。

電気新聞 2022年8月17日掲載

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