わが国の脱炭素化を推進する上で、地域の取組が果たす役割は大きい。昨年に策定された「地域脱炭素ロードマップ」(以下、「ロードマップ」)では、地域の脱炭素化が、地域資源の活用や地方創生等の観点からも重要な課題とされており、対応の加速化が求められている。そこで本稿では、地域の脱炭素化に積極的に取組むオランダの事例を紹介し、わが国への示唆を述べる。
オランダは2030年までに1990年比49%、2050年までに同95%の温室効果ガス排出量削減目標を掲げている。これまでは天然ガスの利用が多かったものの、国内生産を縮小するとともに、2018年には新築住宅や小規模事業所の建物のガス供給網接続を禁止している。また、政府と産業界との間で様々な対策を取り決めた気候協定を締結した。気候協定の中で、既築建物の対策については、約350ある自治体の役割を重視しており、各自治体に対して、建物の脱炭素化に取組む具体的な計画である「熱移行計画」を2021年末までに提出することを求めた。近隣地域やステークホルダーと協働しながら、熱分野の対策を進めることを促すものである。
熱移行計画の中で、自治体は対策を行う地区や建物の件数を定め、熱源や費用を検討する必要がある。その検討において、地区ごとの建物の建築年等のデータから、断熱化の費用や必要な熱の温度帯等を考慮して、熱源転換の社会的費用を計算し、必要となる対策の中で、できるだけ費用を抑えたものを選択している。例えば、オーファーアイセル州の州都ズヴォレ市の計画を見ると、比較的建築年代の新しい建物が多い地区では、断熱性が高いために全電化が最適な対策とされている。また、排水・地中熱等の再生可能資源による熱供給ネットワークの利用が選択された地区も多い。一方、歴史的建物が多いなど断熱化が難しい地区や、新たなインフラの設置スペースがない地区では、バイオガス等を含めた再生可能ガスを利用することが計画されている。このように、地域や立地する建物の特性によって異なる経済性を踏まえ、最適な対策を選択しようとする姿勢は、他の自治体の計画でも共通して見られる。
さらに、自治体が熱移行計画を立案・実施するための知見の蓄積に向けて、支援事業である「ガスフリー地区プログラム」が2018年から提供されている。これまでに先駆的な約60の地区が補助対象として選定されている。得られた知見を広く共有することで、同様の取組を横展開することを目指している。
以上から、わが国の地域脱炭素化に向けて得られる示唆を整理する。第一に、熱分野の脱炭素化が鍵になる。わが国では給湯・暖房・コンロ等の熱分野が、家庭のCO2排出量の約5割を占めていることからも、その対策が極めて重要である。しかし、わが国の脱炭素化の議論では、再エネの普及拡大による電力供給側の対策については検討が多いものの、熱源転換を含めた需要側の対策については十分に検討されてきていない。脱炭素地域の選定要件の中で例示されている「民生部門の電力消費以外の熱利用に伴うCO2」の排出削減対策を強化すべきである。
第二に、必要な対策を選ぶに当たり、経済性を考慮することが重要である。熱源転換に必要となる設備や断熱化等の初期費用やランニングコストを踏まえ、地域における社会的費用を明らかにすることで、対策の受容性を高めることができる。
そのためにも、第三に、支援事業による具体的な取組を通じて知見を蓄積していくことは有効である。2025年までに100か所以上の脱炭素先行地域を選定し、先駆的な取組を支援するという、ロードマップの方向性とも合致する。今後の先行地域の選定において、熱分野の対策の検討をしているものを評価し、その支援事業の知見を広く共有して横展開につなげることで、脱炭素化に向けたより効果的な取組になると考えられる。
電気新聞 2022年4月20日掲載