電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(255)
カーボンニュートラルの実現に向けて、原子力が果たすべき役割と課題は何か?

本題とは離れるが、本稿執筆に着手した2月下旬、ロシア軍がウクライナに侵攻を開始した。国際法に反する蛮行であり、殊に3月4日のザポリージャ原発占拠は、操業中の原発への攻撃であり、最大の非難を呈したい。先行きに予断を許さぬ情勢下ではあるが、3月中旬の状況に基づいて少し述べたい。

ロシアは世界有数の資源生産・輸出国であり、天然ガスでは産出量世界シェア20%強で米国に次いで2位、原油は10%強で同3位である。パラジウム(40%弱、1位)や白金(20%弱、2位)なども特筆される。日本のLNG輸入に占めるロシアのシェアは8%程度であり、オーストラリアなどに次ぐ4位である。

日本も加わる経済制裁の効果も出始めているが、ロシアは直ちに停戦に応じる気配はない。日本として、ロシアに代わる供給元を探るとともに、利用側での相互融通などの工夫を通じて、価格上昇との我慢比べに立ち向かうことになる。

本題であるカーボンニュートラル(CN)について、目標年次である2050年断面の絵姿だけでなく、そこに行き着く過程が重要である。今回のような事態が繰り返されてはならないが、多様性と柔軟性、頑健性を維持しつつ、情勢変化に機敏に対応できるエネルギーシステムの構築が求められる。

CNへの多難な道のり

CO2の人為的排出と人為的除去を均衡させるCNでは、排出の大幅な削減だけでなく、残余の(正の)排出量を同量の「負の排出」で相殺しなければならない。たとえば80%といった大規模削減であれば、許容される20%の排出枠を産業その他の部門に最適配分することが許される。一方、CNにおいては、正の排出のみならず負の排出をもいかに配分するかという、はるかに複雑な問題を呈する。負の排出を提供する技術として期待されているBECCS(CO2回収・貯留付きバイオマス利用)等は、技術的に未解決な課題がある上に、経済的なハードルも高い。

CNは原子力の後押しとなるか

CO2排出削減の王道は、電化と電源の脱炭素化の両輪である。電化で増大する電力需要を無炭素電源で賄う上で、原子力は再生可能エネと並んで重要である。その役割を果たす上で、克服すべき課題を3つ指摘する。
原子力発電技術の生来の特徴は「資本集約的」、すなわち初期投資は巨額だが、運転期間中の運転維持費、燃料費が低廉であることである。原子力発電コストの安定性が高いという特徴は、以前の総括原価主義の下では非常に好ましいものであった一方で、卸電力市場では上下する価格に対して収益を確実に見通すことが難しく、投資回収の予見性が低下している。つまり、原子力発電が生来持っている経済的な性格と市場機能との相性が良くないのである。

いま一つは、現在の日本国民の多くが、原子力エネルギーを自ら進んで選び取ったという記憶を持たず、むしろ「押し付けられた」ものと受け取っているのではないか、という点である。1954年度の「最初の原子力予算」など、原子力導入を象徴するイベントはいずれも半世紀以上前のことである。自ら望んで選び取る事物と比較して、押し付けられた事物は、たとえば積極的喫煙に対する受動喫煙、自ら運転する自動車に対する他者が運転する自動車などのように、前者はメリットを大きく、事故リスクなどのデメリットを小さく認識する一方で、後者はその逆の認識をするのである。

加えて、日本国民の少なからぬ割合は、もはや原子力への興味を持たず、「知る必要がない」と認識しているのではないか。原子力文化財団の世論調査2020年度版では、原子力に関する情報の流通量、情報源への接点や接触頻度が低下していることへの懸念が指摘されている。ただ、国民の側がそれらの情報を受け取る必要を感じていないとすれば、流通量や接触機会を増やしても効果が薄い。

CNへ向かう道程において原子力が役割を担うためには、CNの実現を図っていく過程についての議論を巻き起こし、一人でも多くの国民の参加を促す必要があるのではないだろうか。今般再開した総合エネ調原子力小委では、そのような国民的な参加を誘発する議論を望みたい。

著者

長野 浩司/ながの こうじ
電力中央研究所 特任役員 企画グループ
1987年度入所、専門はエネルギーシステム分析、原子力政策、博士(工学)。

電気新聞 2022年4月6日掲載

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