太陽光発電は、晴れ・曇り・雨などの日々の天気と雲の変化によって出力が変動する。
太陽光発電が大量に導入された電力系統において、低気圧に伴う前線による雲域の通過によってエリア全体の太陽光発電出力が大きく変動した場合、適切に制御できなければ、需要と供給のバランスが崩れて周波数が変動し、最悪の場合は停電が発生する可能性がある。この対策として、電力会社は前々日、前日の再エネ予測結果を基に当日の発電計画を作成し、火力発電や揚水発電などを計画的に運用することで、太陽光発電の出力変動と電力需要に対応することを試みている。また、近年では、当日の予測を組み合わせた取り組みもなされている。ここでは、この太陽光発電の予測手法について述べる。
太陽光発電の出力は、日射量と太陽光発電のパネル係数(パネルの方位角・傾斜角・定格電流・定格電圧など)から算出される。地域単位では、日射量と太陽光発電設備導入量に基づく換算係数から算出される。
太陽光発電の予測では、一般に、設備に起因する誤差よりも日射量の誤差の方が大きい。このため、以降では、翌日と当日予測対象とした日射量の予測について説明する。なお、ニューラルネットワークなどのAIを活用した予測や、統計的に誤差を取り除く手法の説明は省略する。
翌日の日射量予測では、数値気象モデル(以後、気象モデル)が用いられる。気象モデルとは、地表から上空数十kmまでの大気を3次元の格子網で覆い、全ての格子点上での風速・気温・湿度・気圧・雲などの時間変化を、物理法則に基づいて計算機により数値的に解くモデルである。
太陽光発電出力予測には、台風から積乱雲までの約2,000kmから2kmのメソ(中規模)スケールの気象現象を取り扱うメソ気象モデルが用いられる。例えば、気象庁のメソ気象モデル(MSM)は、空間解像度は5kmで、4時間間隔で39から51時間先までの日射量の予測結果を1時間間隔で取得することができる。
大学、気象予報会社、研究機関などでは、日射量予測精度向上や、空間解像度や時間間隔の高解像度化を目的として、独自の気象モデルを用いた予測の取り組みがなされている。例えば、当所では、米国大気研究センターなどが開発した気象モデルWRFを基にした気象予測・解析システムNuWFASを用いた日射量予測に関する研究・開発を実施している。
当日予測でも、気象モデルが用いられる。但し、気象モデル計算は、計算負荷が大きく、その計算に数時間を要するため、直近の予測には十分に活用できない場合があるためである。また、連続した雲の流入や弱い低気圧や高気圧に起因する雲などは気象モデルでは予測が難しい場合がある。
このような予測が得意なのが、衛星画像に基づく予測(衛星予測)である。衛星予測では、気象庁のひまわり8号・9号を現在と過去の画像から相互相関法などによって雲の移動方向を求め、画像を移動させることで雲(日射量)の変化を予測する方法である。予測時間は、気象条件にもよるが、3時間程度先までが予測対象となる。計算時間は、データ取得を含めて20分程度であり、直近の予測に対応することができる。衛星予測の事例として、当所では、日射量予測・解析システムSoRaFASを用いた研究・開発を実施している。
翌日以降の予測は、引き続き、数値気象モデルが基本になると考える。一方、当日予測は数値気象モデルに加えて衛星予測の活用が本格化すると考えている。但し、衛星予測が、気象モデルに対して全ての点で優れているわけではないことに注意が必要である。衛星予測では、画像のみを用いて計算するため、雲の発生や消滅を予測することができない。また、夜明け前からの予測などで課題を有している。
このような観点から、数値気象モデルと衛星予測を組み合わせた手法が今後、主流になると考えている。なお、観測データが存在する太陽光発電設備では、観測値をリアルタイムに取り込むことで、予測誤差を低減することを確認している。このため、当日予測では、数値気象モデルと衛星予測と観測値を組み合わせた手法の開発が必要になると考えている。
電気新聞 2022年3月23日掲載