昨年取り纏められた第六次エネルギー基本計画では、再生可能エネは最大限の導入に取組むと謳われている。洋上風力が切り札として期待されているものの、開発には一定の年数を要するため、当面は太陽光発電(PV)の更なる導入拡大が不可欠とされる。しかしその導入が進むにつれ、課題も見えてきた。
現在のPV導入目標は野心的で、2030年度時点で1億kW、すなわち、現在の1.6倍に達する。一方で、これに対する課題は多い。日本はもともと設置に適した平地が少なく、さらに、地域住民とのトラブルや系統の空き容量など、様々な立地制約も顕在化してきている。また、電力の買取価格の低下などのインセンティブ不足も否めない。
これに対し、国は政策の強化を打ち出している。系統の空き容量を活用するノンファーム型接続等の系統利用ルールの見直しと併せ、公共施設や新築住宅への設置の促進、耕作放棄地を始めとする農地利用を図るとされている。まずは、このような政策を着実に実行することが望まれる。
一方、これまでは、固定価格買取制度(FIT)の下で、設置すれば利益が挙げられた。しかし、これからはさらに知恵を絞る必要がある。
後押しするのは、やはり、環境に対する社会認識の変化である。特に、年金基金など大きな資産を超長期で運用する機関投資家を中心に、投資の際に、気候変動などの長期的なリスクマネジメントを重視するようになってきている。日本でも、2015年に、国連責任投資原則に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が署名している。このように、環境への配慮が、企業経営のサステナビリティに直接影響するようになり、将来をにらみ戦略的に環境価値の高い電源を確保する動きが高まっている。PVの環境価値がますます重要になっている。
分散型リソースの活用で先行する欧米では、PVに関して、様々なビジネスモデルが存在している。ドイツでは顧客の住宅用PVと蓄電設備を活用し、PVの余剰電力をクラウドに保存し、引き出せるクラウドモデルや、コミュニティー全体の蓄電設備内の電力の過不足が融通されるコミュニティーモデルなどが事業化された。これはドイツの家庭用電気料金が比較的高水準であったことによる。
一方、電気料金がドイツほど高くなく、逆にPV設備費が高かった米国では、設備の初期費用を需要家自身が捻出するインセンティブが弱く、事業者が設備を設置して電力を需要家に販売する電力販売契約(PPA)モデルの方が普及した。これらの諸国では、電力市場取引から利益を創出することも盛んだ。これらの変化は急速で地域の実情に合わせ、環境価値を上手く利益につなげるモデルの設定が常に課題になっている。
表 太陽光発電に関わる代表的なビジネスモデル
PPA* | 事業者が発電設備を設置して需要家と電力購入契約を結ぶ |
コミュニティソーラー | 複数の需要家で一つの太陽光発電を利用する |
クラウド | 顧客の太陽光発電の余剰電力を事業者が預かり必要な時に引き出す |
P2P | 事業者が太陽光発電設備を持った顧客同士の電力取引を可能にするプラットフォームを提供する |
*Power Purchase Agreement:電力販売契約
通信事業では、かつて移動体が再生可能エネと同様な新興分野であった。しかし、携帯電話では、iモードの開発を始め、様々な事業価値が創出されてきた。今では、NTTの営業利益の半分以上は移動通信が占めている。PVの更なる導入が可能かは、社会のトレンドを読み、FITを超えた更なる事業価値をPVに創出できるかにも懸かっている。
電気新聞 2022年3月9日掲載