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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(252)
欧州連合は、天然ガスと原子力をサステナブルな経済活動に位置付けるのか?

22年2月2日、欧州委員会はEUタクソノミーに関する補完的な委員会委任規則の採択を決定した。EUタクソノミーは、EUのサステナブルファイナンスの取組みの一環で、サステナブルな経済活動の基準を定めるものだ。補完的な委員会委任規則は、天然ガスや原子力を、EUタクソノミーの中に一定の条件の下で位置付ける。

EUタクソノミーとスクリーニング基準

EUタクソノミーの原則等は既に定められていたが、21年末に発効した委員会委任規則2021/2139により、個々の経済活動に関する判断基準(スクリーニング基準)が定められた(電中研報告SE21001参照)。しかし、論争となったいくつかの経済活動が抜け落ちていた。その代表格が天然ガスと原子力であり、新たに採択が決定された委員会委任規則はこの点を「補完」する。

天然ガスと気候変動の緩和

EUタクソノミーでは、6つの環境目的を定義し、1つ以上の環境目的に貢献することを要件とした。気候変動の緩和を例に取れば、温室効果ガスの排出量が少ないことが要件であり、再生可能エネ等がこれに該当する。

争点となったのが天然ガスである。スペインやデンマークなどはカーボンロックインを懸念して厳しい基準を求めたのに対し、ポーランドやチェコなど石炭依存度の高い国々は、石炭の代替のために天然ガスの利用を認めるべきだと主張した。

原子力とDNSH

EUタクソノミーにはもう一つ、「環境目的を著しく阻害しない」という要件がある。原語(Do no significant harm)の頭文字をとってDNSHと呼ばれる。すなわち、気候変動の緩和に貢献するとしても、他の環境目的に悪影響を及ぼすものはサステナブルではないと判断される。

原子力はこの観点から論争となった。放射性廃棄物の処分が循環経済に対するDNSHを満たすかが焦点であり、ドイツやオーストリアなど脱原子力を志向する国はこれを指摘した。欧州委員会の共同研究センターによる検討の結果「他の発電技術と比べて、環境に悪影響をもたらすとの科学的な証拠はない」と結論付けられたことを踏まえ、21年4月、原子力について、天然ガスとともにスクリーニング基準を策定することが決定された。

天然ガスと原子力に関する基準

今回採択が決定した基準は、天然ガスと原子力いずれも「ライフサイクル排出量がkW時あたり100g未満」であり、これは再生可能エネの基準と同水準である。しかし、天然ガスのうち30年末までに建設許可を取得する設備については、多排出な設備の置換や再生可能ガス等への転換などの要件を満たす場合に限り、「直接排出量がkW時あたり270g未満」又は「20年間の平均でkWあたりの年間排出量が550kg未満」が基準とされた。原子力には、EU等の規制の遵守、放射性廃棄物の管理や廃炉の資金や処分場の確保、事故耐性燃料の利用などの要件が定められた(電中研社会経済研究所ディスカッションペーパー21005参照)。

天然ガスと原子力をめぐる政治力学

補完的な委員会委任規則は、全てのEU公用語に翻訳された後に正式に採択され、そこからさらにEU理事会と欧州議会の検討に付される。検討期間は最大6か月であり、最終的な決着は今年の夏頃になるだろう。

ただし、両者にできるのは否決のみであり、否決されなければ発効する。特に理事会での否決には20か国以上が必要であり、ここに天然ガスと原子力が一体として扱われたことの政治的含意がある。

EUにおいて大国であるフランスとドイツの協調は重要だが、両国は原子力に対する立場が大きく異なる。しかし、ドイツは脱原子力と脱石炭を並行して行っており、少なくとも当面の間、天然ガスの重要性は高い。そのため、原子力と天然ガスを立法上で一体として扱うことで、妥協の可能性が生じる。

ただし、オーストリアなどは補完的な委員会委任規則に反対の姿勢を示しており、また欧州議会の議員の一部にも否決を目指す動きがあり、現時点で予断はできない。欧州委員会による決定は重要な節目だが、引き続き行方が注目される。

著者

堀尾 健太/ほりお けんた
電力中央研究所 社会経済研究所 主任研究員
2018年度入所、専門は気候変動政策、原子力政策。

富田 基史/とみた もとし
電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 主任研究員
2011年度入所、専門はサステナビリティ学、森林生態学、博士(農学)。

電気新聞 2022年2月16日掲載

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