重要な社会インフラである変圧器や遮断器などの電力流通設備に対し、性能確認のための受入試験等として高電圧試験が実施される。この時、規定の電圧が印加されていることを確認するため、電圧値を測定するが、数十万ボルトなど高い電圧を扱うことから測定器で直接測定することは困難である。このため、分圧器と呼ばれる装置を用いて高電圧を分圧して測定する。
高電圧の測定においても、測定値が正しいことを担保するため校正は必須であるが、分圧器と測定器を組み合わせた測定システムとして校正を行う必要がある。扱う電圧値が高いほど分圧器は大型となり測定システムの校正も難しくなる。
高電圧測定の校正では、校正対象の測定システムと基準測定システムで電圧を同時に測定し、その示す値の比率とその不確かさを決定する。不確かさとは、測定結果に付随したばらつきを特徴づけるパラメータであり、これが規格に定められた値より小さくなければならない。基準測定システムは、さらに上位のシステムと比較して校正しておく必要があり、この校正の連鎖をたどれば国家標準にたどり着くことをトレーサビリティという。
高電圧試験を行う電圧の種類には、製品で使用される直流や交流電圧だけでなく、雷などによる過電圧を模擬したインパルス電圧がある。インパルス電圧はマイクロ秒オーダで急峻に立ち上がるため、その測定には特別の測定システムと技能を必要とする。このため、わが国ではインパルス高電圧測定システムに対するトレーサビリティと校正サービスの確立が遅れていた。電力中央研究所では、関係機関と連携して国家標準にトレーサブルな基準測定システムの構築、その性能評価を行ってきた。現在は、製品評価技術基盤機構が運営する計量法に基づく計量法トレーサビリティ制度(JCSS)に認定されたインパルス高電圧測定システムの校正サービスが提供されている。JCSS校正では、国家標準へのトレーサビリティが認証されている。
グローバルに商取引を行う際、試験の二重実施を避けるため、相手国で実施した試験を承認する必要がある。このためには、測定システムの校正結果が他国と同等であること(国際的互換性)を確認する必要がある。前記の高電圧測定システムのJCSS校正サービスは、認定時に国際的互換性が確認されており、国際試験所認定協力機構(ILAC)加盟国でも有効な校正として承認されている。
このような互換性の継続確認のため、国際比較試験が実施される。インパルス高電圧の分野では、2018年に欧州国家計量標準機関協会が主催する試験が実施された。世界各国の計量国家機関を中心に13か国から参加があった。日本からは前記の基準測定システムを運用・管理している日本高電圧・インパルス試験所委員会(JHILL)として参加した。各国に巡回された巡回基準測定システムと各国の測定システムとの比較校正により、各国の測定システムとの互換性が確認されている。図は日本での試験実施状況である。
2021年度には高電圧試験に関する国内規格が改正予定であり、測定システムのトレーサビリティ確保が規定される見込みである。グローバル社会で通用する高電圧試験を実施するためにも、インパルス高電圧測定システムのJCSS校正サービスの今後益々の活用が期待される。
電気新聞 2021年10月27日掲載