送変電・配電設備などの電力流通設備に対し、製品の性能確認のための試験が実施される。試験は主に過電圧を模擬した高電圧を印加して絶縁耐力を検証する高電圧試験と、地絡や短絡を模擬した大電流を流して通電性能等を検証する短絡試験に大別される。
電力系統では、落雷などで発生する地絡や短絡により、通常の数倍から数十倍の大電流が設備に流れ、状況によっては大電流アークが発生する場合がある。実際に使用される機器で実規模の短絡試験を行うことは、大電流の通電による熱的影響の検証(電流実効値と時間による)、電磁力の影響の検証(電流波高値による)、気中アークによる耐アーク性能の検証(圧力上昇や燃焼による)のためである。現時点では解析等による評価には限界があり、現物を用いて試験を実施し、試験時の様相や性能を検証することが重要である。
我が国最初の短絡試験設備は、1963年に電力十社とメーカー五社が共同で超高圧電力研究所に設置された。現在は電力中央研究所(電中研)が事業を継承し、種々の短絡試験を実施している。短絡試験設備は実規模の現象を再現するため、大規模な試験設備が必要となる。通常、大電流を短時間通電する設備として短絡発電機が使用される。短絡発電機は大電流の通電に耐えられる特殊な仕様である。短絡発電機に加え、短絡変圧器、投入開閉器、保護遮断器などの設備構成により、前述の短絡試験設備では、国内の電力系統で想定される最大規模の短絡電流(6万3千アンペア)や気中アークの再現が可能である。
現在、我が国では、各メーカーでも大規模の短絡試験設備を保有し、メーカーと電中研の6機関がJAB(日本適合性認定協会)より、ISO/IEC17025による大電力試験所認定を取得している。また、これらの試験所はJSTC(日本短絡試験委員会)のメンバー試験所で、JSTCはSTL(国際短絡試験協会)のメンバーである。STLは、短絡試験技術と実績を有する機関が加入できる国際組織であり、我が国の短絡試験技術力が国際的に認められている。
認定試験所において大電流測定のトレーサビリティと国際互換性は重要である。電流の校正システムでは、電流が流れた抵抗体の端子電圧を測定する分流器(シャント)が主に使用される。シャントの抵抗値を精度よく校正し、トレーサビリティが確保されている。
大電流計測で使用するシャントは国際比較が行われており、STLで管理する2種類のレファレンスシャント(ヨーロッパ・アフリカ用とアジア地区用)をメンバー試験所で巡回し、国際互換性が確認されている。
短絡試験には主に二つの役割がある。一つは規格に基づき性能を検証する試験である。メーカー試験所では主に規格に基づく形式試験等が実施される。もう一つは、万一故障が発生した場合に公衆災害等に至らないことを確認するため、地絡や短絡による通電性能や大電流アークを発生させた耐アーク性能を検証する試験である。電中研では主に電力会社(ユーザー)からの要請により、新規導入設備や経年設備の性能検証、電力系統で発生した故障や事故の原因解明と対策技術の確認、電技改定等の規制・基準へのデータの提供等も実施している。
高度な短絡試験技術を維持・継承し、両者の役割を継続することは、安心安全で信頼度の高い設備形成により電力の安定供給を今後も維持していくために不可欠であると考えられる。
電気新聞 2021年10月13日掲載