電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(243)
電力需要ポートフォリオは効果的な需要抑制に寄与するか?

電力需要ポートフォリオとは

近年、電力自由化の進展や再エネの普及拡大に伴い、エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス(ERAB)が注目を集めている。ERABではアグリゲーターと呼ばれる事業者によって、デマンドレスポンス(DR)等を活用した電力の調達・販売が行なわれる。今後のERABの進展により、アグリゲーターが制御するDSR(空調、照明、生産設備、蓄電池等の需要家側エネルギーリソース)の数が非常に大きくなる(数千~数万)ことも予想されている。ERABの例としてDRの一種であるネガワット取引を取り上げる。これは、需要抑制量(ネガワット)に応じた報酬を需要家に支払う取引である。例えば夕方~夜に適用すれば、太陽光発電の増加で懸念される電力需給の不均衡(ダックカーブ)を緩和でき、脱炭素化社会の実現に寄与できる可能性がある。なおネガワット取引では、需要抑制しないと仮定したときの需要予測値(基準値)と実際に需要抑制を行なった需要実績値との差がネガワットとなる。このため、各需要家が供与するネガワットには、制御対象となるDSR以外の需要変動等に由来する不確実性が伴う。アグリゲーターは、こうした不確実性がもたらすネガワットの調達リスクも考慮した上で、DR要請する需要家やDSRをうまく組み合わせることが求められる。電力需要ポートフォリオとはこの組合せのことである。

電力需要ポートフォリオの現状

電力需要ポートフォリオに関連した取り組みの現状を紹介する。

東芝では、各需要家の基準値の予測誤差と需要削減実績のばらつきの両方を考慮してネガワットを予測し、ネガワット予測値の大きい順に需要家を優先して組み合わせるポートフォリオ管理技術を開発しており、シミュレーションによる評価を行なっている。アズビルでは、人工知能(AI)の学習結果にもとづいて、安定したネガワットの供与が期待できる需要家に対して優先的にDRを割り当てる機能を開発しており、シミュレーションによる検証を行なっている。また、関西電力では、ポートフォリオに含まれるDSRの種別に応じて、DR実施中にフィードバック(FB)制御を行なう実証実験に取り組んでいる。実証実験では、浄水ポンプのような細やかな制御が難しいDSRを含むポートフォリオに対しても、ネガワットの総和を精度よく制御できることを示している。

電力需要ポートフォリオの課題と可能性

電力需要ポートフォリオの今後の課題として、不確実性、スケーラビリティ、公平性への対応が挙げられる。

ネガワットの不確実性に対応するには、各需要家の基準値の予測精度向上やFB制御の高度化に加えて、ポートフォリオ作成の段階で、需要のばらつきを互いに打ち消し合うように、DR要請する需要家をうまく組み合わせることが考えられる。これに関して電中研では、株式のポートフォリオ理論を拡張して、ネガワットの総和の変動を極力小さくするような電力需要ポートフォリオの作成方法を考案し、基礎的な検討を行なっている。また、今後DSRの数が増加すると、実際のネガワット取引に間に合うような時間内にポートフォリオを作成できなくなる問題(スケーラビリティ)が発生する可能性がある。これに対しては、例えばDSRを一定数で束ねて平均化する等して計算量を減らし、効率よくポートフォリオを作成することが考えられる。また、ポートフォリオの作成では、「需要家からの視点」を取り入れることも求められる。例えば、需要家がDRへの参加報酬を得る機会を公平化することは、今後DRの契約数を増やし、ERABの継続性を高める上で重要である。これについて電中研では、各需要家のDR参加日数をなるべく均等にするようにDRを要請するルールを考案し、ポートフォリオ作成時の制約条件として適用することを検討している。

これらの課題の解決により、電力需要ポートフォリオは、需要家の便益を図りつつ安定したネガワットを確保する有効な技術となり、効果的な需要抑制に寄与すると考えられる。

著者

鶴見 剛也/つるみ たけや
電力中央研究所 グリッドイノベーション研究本部 ENIC研究部門 上席研究員
2002年入所、専門は需要予測、博士(理学)。

所 健一/ところ けんいち
電力中央研究所 グリッドイノベーション研究本部 ENIC研究部門 上席研究員
1989年入所、専門は数理最適化、博士(工学)。

電気新聞 2021年9月29日掲載

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