気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第1作業部会から、先月9日に第6次評価報告書が発表された。地球温暖化の科学基盤を学術論文に基づき評価したもので、2013年の第5次報告以降の最新の知見が反映されている。内容は多岐にわたるが、ここ数年の新しい研究成果が加わり、これまでの温暖化と今後の気候の見通しが全体的により精緻に評価されたと言えよう。温暖化への人為影響が明白となり、リスク評価や温暖化への適応に役立つ情報提供にも注力されている。以下では、2050年カーボンニュートラル(以下、2050CN)の観点で、従来の報告書からの主な更新を見ていく。
気候感度は温暖化・寒冷化しやすさの指標で、大気中のCO2濃度が倍増した時の世界平均気温の上昇量で定義される。この値は従来から3度くらいと考えられ、その不確実範囲として1.5から4.5度までの可能性が高い(確率66%超)と見積られていた。
2050CNは温度上昇を1.5度に抑える目標に対応する。累積排出量→濃度→温度上昇の因果関係から、気候感度の値や幅は2050という年限を左右するものとなる。
気候感度の推定は30年以上目立った変化がなかったが、今回ついに大きく更新された。可能性が高い範囲は半分に狭まり、最良の推定値が3度と明記された。3度が変わらず幅が狭まったことで、これだけを見れば、2050CNと1.5度がより確かな関係になった形である。
これまでに生じた温暖化は19世紀後半を基準に、観測データを世界平均して算出される。ただし世界平均とその長期トレンドを偏りなく求めるのは難しい。この問題は、1.5度という従前より低い水準に関心が寄せられる中で、より真剣に検討されるようになった。
報告書では直近10年の平均で見た温暖化の水準が約1.1度と評価された。第5次報告からの改訂には、実際の温度上昇のほかに、データそのものの理解向上も関係する。データ関連の更新は主に、昇温の大きい北極域にあり、0.1度弱の上方修正となる。
世界平均については算定法の違いもある。これまで、海域を世界平均に含める方法が二通り併用されており、長期トレンドに10%程度の違いがあると認識されていた。ところが、その大小関係がまちまちであることが分かり、報告書では、二つの方法を区別しない形で不確実範囲を広くとった数値が示されるに至った。
1.5度が近づき、そこにいつ頃到達するか注目されるが、現在の水準で不確かな所が今後も修正される可能性にも注意が必要だ。
ニュートラルは人為的な排出と人為的な除去の均衡、つまりネットゼロ排出を意味するが、その対象に曖昧さがある。政府の2050CNは温室効果ガス(GHG)全体のネットゼロとされるが、カーボンは普通CO2を指す。
報告書では、付録の用語集にカーボンニュートラルの項目が加わり、文字通りCO2が対象であることが明記され、換算係数に依存するGHGのニュートラルと区別された。
CO2とGHGでは同時期にネットゼロに到達する場合でも温度の推移が異なる。報告書では、標準的な方法で換算されたGHG排出量がネットゼロに達すると、温度はピーク後に低下すると評価された。CO2のネットゼロの場合は温度上昇が概ね安定化するので、GHGネットゼロはより強力な(安定化を上回る)施策と理解される。
そもそもネットゼロ目標は、温度上昇と累積CO2排出量が近似的に比例すると第5次報告で示されたことが端緒となる。この関係は高い確信度で再確認され、温度目標に対応する累積CO2排出量の上限といった情報も示されている。排出削減の実現可能性は第3作業部会の担当であり、そちらの第6次報告は来年3月に公表予定である。両部会の知見を費用対効果の高い施策につなげるために、引き続きIPCCの情報に注視していきたい。
電気新聞 2021年9月15日掲載