電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(241)
分散型蓄電池をリソースとするVPPビジネスの事業性を評価する際の課題は何か?

九州V2G実証

電力中央研究所は、EV(電気自動車)から電力系統へ電気を供給するV2G技術の実証事業(九州V2G実証事業)に2018年度から2020年度まで参画した。20年度はV2G/VPP(仮想発電所)の事業性評価を行ったが、適切な評価を行うためには様々な課題があることが明らかになった。本稿では、家庭用の蓄電池やEV等の分散型蓄電池をリソースとするVPPビジネスに注目して、その事業性を評価する際の課題について論じる。

NPVによる評価

事業性評価では、事業の成立可否や収益性を様々な指標で計測する。その一つが、事業が将来にわたって生み出すCF(キャッシュフロー)に基づいて、事業の採算性を測るNPV(正味現在価値)である。

NPVの代表的な計算方法としては、割引CF法が挙げられる。これは、資本コストを用いて将来CFを割引現在価値に換算し、そこから事業開始時の初期投資額を控除した値を事業のNPVとする方法である。この方法では、将来CFを算出するための収入と支出の想定が必要となる。

分散型蓄電池をリソースとするVPPビジネスにおいては、束ねたリソース群の市場への供出によって得られる収入の想定や、リソースの調達や遠隔制御等のシステム運用にかかる支出の想定が課題となる。

収入想定の課題

VPPビジネスは、各リソースのエネルギー(キロワット時)、容量(キロワット)、調整力(デルタ・キロワット)の価値を束ねて市場に提供することが可能であり、収入想定にはそれらの市場価格予測が必要となる。

日本では各々に対応する市場は開設されているものの、需給調整市場は低速枠の3次②のみである。海外では高速な調整力ほど高価格になる傾向があり、分散型蓄電池をリソースとするVPPビジネスの場合、より高速な調整力の提供で高い収入が得られる可能性もある。しかし、高速な調整力の市場は日本では開設前であり、参照可能な価格情報がないため、エネルギー市場や容量市場に比べて価格予測が難しい。

そこで、日本の市場が整備されるまでの間は、先進的な欧米市場のデータを参考に価格予測モデルを構築し、そのモデルを用いて市場価格を予測することが考えられる。その際には、市場設計や電源構成等、日本との違いを勘案した予測が必要となる。さらに、市場価格には変動リスクがあるため、シナリオ分析や確率的シミュレーションを実施し、幅を持って評価していくことが望ましい。

支出想定の課題

分散型蓄電池等の小規模リソースを対象とするVPPビジネスでは、リソース遠隔制御等のシステム運用にかかる支出に加えて、リソースの調達にかかる支出(VPP事業者が家庭用蓄電池やEVを所有する需要家に支払う契約料)の想定が課題となる。契約料の高低は需要家からのリソース調達可能量に影響し、分散型蓄電池をリソースとするVPPビジネスの実現可能性を左右するため、事業性を評価する際のポイントとなる。

これらの支出想定では先行事例を参考にすることが考えられる。しかし、VPP契約料の適切な設定には、分散型蓄電池に対する需要家の選好や電気料金負担等に基づく検討が欠かせないため、需要特性や地域の異なる先行事例のみに依拠した設定は妥当性を欠くことになる。そこで、需要家を対象にVPPリソース提供の受容性調査を実施し、契約料とリソース調達可能量の関係を定量的に把握することが必要となる。その関係を用いることで、想定するリソース調達量に応じた調達支出額を、実情に即して算定することが可能となる。

課題解決に向けて

VPPの市場規模は今後拡大していく見通しではあるものの、現在は成長の初期段階であり、事業者が相応の収支リスクに直面することは避けられない。そこで、日本の事情を踏まえて収入・支出の両面で想定の確度を上げつつ、リスクを考慮した事業性評価を行うことが重要となる。そのためには、ビジネスの収支構造を明確にした上で、収入・支出の想定に必要なデータを整備するための調査・定量分析の実施が欠かせない。

著者

井上 智弘/いのうえ ともひろ
電力中央研究所 社会経済研究所 上席研究員
2011年度入所、専門は財務分析・計量経済分析、博士(経済学)。

電気新聞 2021年9月1日掲載

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