電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(240)
産業電化の鍵であるヒートポンプはこれから大幅に普及拡大できるか?(その3)

連載最終回の今回は、産業用ヒートポンプの適用範囲拡大に向けた、100度以上の熱供給が可能な高温ヒートポンプの開発動向について解説する。

乾燥工程用ヒートポンプ

近年、欧州では乾燥工程用ヒートポンプの開発が精力的に行われている。乾燥工程は加熱工程の中でもエネルギー消費量が多いため、優先的な対象と位置づけられており、5つ以上のプロジェクトが進行中である。ここでは今年7月に実証試験が終了した、DryFプロジェクトを紹介する。DryFは、EUの大規模研究開発プログラムHorizon2020の枠組みで実施された。オーストリア技術研究所をリーダーとし、メーカやエンジニアリング会社、エンドユーザなど、計13の企業や団体が参画した。デンプン、レンガ、下水汚泥の3つの乾燥工程を対象とし、2016年からの約5年間で約8億円がEUから資金提供された。

デンプン乾燥用では最高160度の熱供給が可能なヒートポンプを開発した。冷媒、潤滑油、圧縮機が主な開発要素であった。従来の工程でも熱交換器で排熱回収していたが、ヒートポンプによってより低温からの熱回収が可能となり、熱回収量を増大できる(図)。乾燥温度の158度までヒートポンプで昇温し、既設のボイラを撤去することも可能だが、現状としてエネルギーコストが最小となる140度程度で運転している。ボイラの老朽化、または炭素税等によって電気料金とガス料金の比が小さくなった際にヒートポンプの供給温度を上げる計画である。

図

開発・実証体制

欧州では、乾燥工程用以外にもボイラ代替を目的とした蒸気供給ヒートポンプなど、最高200度までの熱供給が可能な各種高温ヒートポンプの開発・実証が活発化している。日本でも200度までの熱供給が可能なヒートポンプの開発が進められているが、メーカ主体の機器開発までのプロジェクトとなっている。しかし、普及拡大のためには、ニーズに合った機器の開発やプロセス統合方法の構築が必要であり、欧州のプロジェクトのように、エンドユーザやプロセス統合の担い手(DryFではエンジニアリング会社)も参画した体制で実施されることが望ましい。

また、高温ヒートポンプの開発促進に加え、市場投入前の性能評価や信頼性の確保を目的として、試験設備の整備も進んでいる。欧州では、2010年にフランス電力に整備された最高140度・700キロワットまでのヒートポンプの性能評価が可能な試験設備に加え、2020年にオランダ応用科学研究機構が200度供給・1メガワットまでのヒートポンプの性能評価が可能な試験設備を整備した。オランダはこの設備を活用し、産業用ヒートポンプの規格化で主導的な役割を担うことも検討している様子である。

日本では、2013年に電力中央研究所が最高200度・600キロワットまでのヒートポンプの性能評価が可能な試験設備を整備し、これまで165度蒸気供給ヒートポンプの性能評価等に活用してきた。今後も産業用ヒートポンプの開発・実証や性能評価を進めるとともに、規格化にも貢献していきたい。

著者

甲斐田 武延/かいだ たけのぶ
電力中央研究所 グリッドイノベーション研究本部 主任研究員
2011年度入所、専門は熱工学。

電気新聞 2021年8月11日掲載

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