地下水が地下に入ってから経過した時間を「地下水年代」と呼ぶ。地下水年代の分布を調べることで、地下水がどの方向に流れていくのか、どのような速度で流れるのか等を推定することができる。地下水年代が極めて大きいことを示すことができれば、地下水の流れが遅いことが期待できる。このため、高レベル放射性廃棄物処分の安全評価や処分場選定に重要な役割を果たすものとして、事業者からも期待されている技術である。
地下水年代を評価するための方法は、大きく3つに分類することができる。
①地下で増加するものを利用する方法
地下で増加するものの代表例として、ヘリウムガスがある。ヘリウムは岩石に含まれるウランやトリウムから発生するため、地下水年代が古くなると、岩石と接触する地下水中のヘリウム濃度も高くなる。ウラン・トリウム濃度等から岩石からのヘリウムの発生速度を評価しておけば、対象とする地下水のヘリウム濃度から、地下水年代を評価できる。この方法では、数百年~一千万年程度の地下水年代を評価可能である。
②地下で減少するものを利用する方法
地下で減少するものの代表例として、天然の放射性同位体が挙げられる。例えば塩化物イオンの放射性同位体(36Cl)は宇宙線と大気中のアルゴンの反応で発生し、半減期約30万年で崩壊していく。地表では発生と崩壊が平衡になり36Clは一定濃度を保つが、水に溶けて地下に入ると宇宙線の影響がなくなるため、半減期に従って減少していく。地表付近と地下での36Clの差と半減期から、地下水年代を推定することができる。半減期の異なる核種を使うことにより、数十年~数百万年の地下水年代を評価可能である。
③そのほかの方法
氷期(約二万年以上前)の気温の低下による溶存希ガスの溶解度の変化や環境中の物質の濃度変化(核実験由来の放射性物質や温暖化ガス)等の濃度を利用し、地下水年代を評価する場合もある。
北海道幌延地域で、ヘリウムによる地下水年代測定を試みた結果を紹介する。この地域の深部地層は水が流れにくく、地下水を汲み上げることが難しいため、主にボーリングで得られた岩石コアの間隙水を試料として用いた。
図 コア試料採取地点の標高とヘリウムから評価された地下水年代の関係
(電力中央研究所報告N09027の図を一部加筆)
図は、コア試料採取地点の標高とヘリウムから評価された地下水年代の関係を示した結果である。ヘリウムから評価された年代は地下深部ほど増加し、最大で一千万年に達していると推定される。この年代は、調査対象の地質年代と概ね整合していることが確認できた。本地点は、過去に隆起沈降等の地殻変動を受けているものの、地下水は堆積時からほとんど動いていない可能性が高いと考えられる。
このように、地下水年代の評価は人為的な試験ではなく、過去の自然現象を利用して地下水年代を推定する方法であるため、地下水の古さを直感的に理解できる。これは、地下水の流れが遅いことを容易に説明可能な材料となるため、高レベル放射性廃棄物の地層処分に対する公衆理解の一助になると期待される。
電気新聞 2021年7月14日掲載