地熱発電の現状と課題について、前回のゼミナールで紹介した。今回は、地熱開発技術として最近世界的に注目されているEGSについて紹介する。
EGSはEnhanced Geothermal Systemsの略で、地熱増産システムと和訳されている。EGS技術は適用する地下の状態により、いろいろな分類や呼び方があるが、ここでは図に示す4タイプに分けて解説する。
一般に地下は深くなるほど温度は高くなるが、亀裂は少なくなり天然の貯留層ができにくい。高温ではあるが亀裂や熱水のない岩盤(高温岩体)に注入井を掘削し、高圧の水を圧入して亀裂を進展させると、亀裂内の水は加熱され熱水となり、人工の貯留層となる。この熱水を生産井で回収して発電等に利用し、その後注入井で地下に圧入すれば、水の循環で岩盤の熱が抽出される。
この技術は高温岩体発電技術として開発されてきたが、現在、貯留層造成型EGSと呼ばれている。この技術が実用化すれば、開発可能な資源量が飛躍的に増えることが期待され、これまで米国やヨーロッパ、我が国等で研究開発が進められた。
電力中央研究所では、1990年代にこの技術により熱出力約1MWの蒸気混じりの熱水生産に成功しており、現在は水に代えて二酸化炭素を用いた熱抽出技術の研究開発にも取り組んでいる。
ヨーロッパ等では地下四、五千mで温度が200度程度の熱水が存在する地域があるが、生産井を掘削しても熱量が小さいため自噴しない。そこで、注入井から水の圧入で亀裂を拡大させ熱水の流動を改善させて貯留層とし、生産井内にポンプを設置して熱水を汲み上げて発電に利用している。発電後の熱水は注入井から貯留層に注入する。これは貯留層改善型EGSと呼ばれ、ドイツではこの方法による発電所が7カ所で運転されている。
天然の貯留層の熱水や蒸気は主に雨水を起源としている。米国やイタリアの既存の大型発電所では大量の熱水や蒸気を長期間生産したため、貯留層内の熱水量や圧力が減衰し出力が低下した。このため、貯留層に都市排水や発電後の凝縮水などを注入して熱水量や圧力を回復させ、出力の安定化が図られている。これは貯留層涵養型EGSと呼ばれ、我が国でも現在福島県の柳津西山地熱発電所でこの技術の実証実験が実施されている。
火山の周辺では比較的浅部で冷却過程のマグマ(超高温岩体)が水の臨界温度(374度)を超える高温状態にあり、高温の熱水を含有している可能性がある。この熱水や超高温岩体の熱を発電に利用できれば、少ない坑井で大きな出力が得られる可能性がある。これは超臨界型EGSと呼ばれ、現在アイスランドや我が国で熱の抽出方法はじめ、掘削技術や適用する材料試験等の基礎的な研究が進められている。
地下に水を圧入すると誘発地震の発生等、環境への影響の懸念もあるが、欧米では事前調査と監視体制を整えることにより、地元の理解を得て実施されている。EGS技術が地熱資源量の拡大や開発リスクの低減に貢献することが期待される。
電気新聞 2021年4月28日掲載