我が国は地熱資源に恵まれ、地熱発電は出力が安定し余剰の熱水を地域振興にも活用できる。2018年のエネルギー基本計画では、地熱発電は2030年に140万~155万kWの導入が目標とされている。現在は約55万kWの設備容量で、今後10年で100万kW程度の発電所の建設が必要であり、目標の達成は難しいところである。
我が国の地熱発電所は、1966年に岩手県の松川地熱発電所が運転を開始して以来、国のサンシャイン計画などの支援により建設が進められ、1996年には国内の総発電設備容量が50万kWに達した。その後、景気の低迷や国の支援の低下等により、20年余り新たな発電所は建設されなかった。
2012年に導入された固定価格買取制度(FIT)で地熱発電の買取価格が比較的高く設定されたこともあり、温泉地などでは既存の高温の蒸気や熱水を用いた数十kW~数百kW程度の小規模な発電所が既に70カ所余り建設されている。2019年には秋田県の山葵沢地熱発電所が出力約4.6万kWで運転を開始したが、その他の発電所は出力が小さく、既設の大型の発電所では出力を下げたところもあり、現在の国内の総発電設備容量は約55万kWとなっている。
地熱発電は図に示すように地下の天然の貯留層に生産井を掘削し、噴出する熱水や蒸気により発電する。貯留層を構成する亀裂は開口幅が数㎜~数㎝で、地下数百m~二千m程度にあるこれらの亀裂の位置や分布を推定し、貯留層を貫くように生産井を掘るのは容易でない。一本で数億円もする生産井を掘っても熱水や蒸気が出ない場合、蒸気や熱水中の溶存成分により生産井や配管内の目詰まりや腐食が生じる場合等がある。また、我が国の地熱資源の多くは山間部に位置し、アクセスや系統連系等の開発条件が厳しく、温泉や観光事業者等、地元の開発への合意形成が難しい場合もある。さらに、地熱開発に特化した法律が無いため、貯留層の開発権利が確保されず、調査や工事に関わる多くの手続きや、環境アセスメント等にも多くの日数を要している。
国はFITの地熱発電の価格を据え置き、国立・国定公園内での開発規制の緩和のほか、以下の予算の確保や技術開発等で支援している。
独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構では、地熱調査や開発の助成・出資・債務保証等の支援のほか、新規開発地点開拓のための調査技術の開発や先導的資源調査等を実施している。また、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構では、発電システムの効率化、環境保全対策、酸性熱水対策等の技術開発を進めている。これらにより、開発リスクやコストの低減が図られることが期待される。
電力中央研究所では地熱開発に関し、貯留層評価技術の高度化、発電システムの効率化、環境影響評価、社会受容性の構築などに取り組んでいる。特に1980年代から研究開発を進めてきた高温岩体発電技術は、最近在来地熱開発への適用等、新たな展開が図られており、次回のゼミナールで紹介する。
電気新聞 2021年4月14日掲載