送配電、変電、系統運用等の電力流通部門では、電力系統の監視制御、設備やメータ情報の管理等のために、様々なシステムやソフトウェアが利用されている。今後、業務の効率化や設備調達コストを低減するためには、これらのシステムやソフトウェアの相互運用性や、仕様と設計の汎用性が必要となる。このようなニーズを満たす方法として、国際電気標準会議(IEC)の定める国際標準の共通情報モデル(CIM)の活用が挙げられる。ここでは、CIMの概要と適用範囲、国内外での利用状況、国内導入に向けた課題について紹介する。
CIMは、電力流通部門における様々な対象を表すデータの意味や関係性を定義する情報モデルである。その本質は、電力流通部門におけるシステム間の相互運用性を確保するためのデータの意味や関係性を示す語彙である。電力流通部門で用いられるデータには様々な形式(データフォーマット)があり、システム間の相互運用を妨げている。故にCIMを活用することによって、データフォーマットとそこで使用される語彙を共通化し、データの入出力を統一的な方法で行うことで、システム間の相互運用性を確保できる。
CIMでは、発電機や変圧器等の電力機器、電力系統の伝送路構成(トポロジー)や計測値、作業や停電に関する文書等、電力流通部門における様々な対象がモデル化されている。モデル化の際には、これらの対象を「もの」として取り扱う。このような手法はオブジェクト指向技術と呼ばれている。CIMは、オブジェクト指向技術に基づいた設計を行うために、モデルの構造や仕様の統一的な記法を定める言語(統一モデリング言語)によって記述される。
CIMの適用範囲は、系統運用、電力流通業務全般および電力取引市場の3つに分類される。該当する国際標準は、それぞれIEC61970、IEC61968、IEC62325である。実際にCIMをシステムやソフトウェアに適用する際には、CIMに基づくデータフォーマットを利用し、主にシステム間のデータ交換やデータアクセス用インタフェース(API)にて利用される。
CIMは、欧米を中心にすでに多くの適用事例がある。例えば、海外ベンダー製の電力系統解析ツールであるPSSREやPowerFactory等は、CIMに基づく入出力インタフェースを実装している。また、フランスの送電事業者であるRTEや米国カルフォルニア州の独立系統運用者であるCAISOでは、電力市場向けのシステムにCIMを導入している。一方、国内においては、電力メータのデータ管理システムや電力系統の監視制御システムに適用されているが、海外と比較すると広く普及しているとは言えない。
国内で更にCIMを活用するためには、①国内で想定される利用例に基づくCIMの拡張、②CIM全体から適用対象に必要な部分を抽出するプロファイルの共通化、③解析ツール等のCIM対応、④CIMのバージョン管理の4つの課題がある。
①では、現在のCIMにおいて、国内で想定される利用例で必要なデータの意味や関係性が定義されていないことがある。そのため、既存のCIMに対する拡張をIECに提案していくことが不可欠である。②では、国際標準の導入目的として、複数の送配電事業者間で同じプロファイルを利用することによるシステム構築・保守コストの削減や、ベンダーロックインの回避がある。そのためには、CIMの適用対象とそれに対応するプロファイルを共通化する必要がある。その際、各社のシステムのインタフェースに対する要件に基づき、プロファイルの範囲自体も特定する必要がある。③に関しては、国内で利用されている電力系統解析ソフト等のツールが、CIMに基づくデータフォーマットに対応し、相互運用性を高めることが必要である。④に関しては、CIMの国際標準は数年に一度改訂が行われており、改訂作業の段階から国内での適用対象を想定した内容を組み込むことが必要である。
電気新聞 2021年1月20日掲載