一次エネルギーから、二次エネルギーへの転換・輸送、エンドユース機器によるエネルギーサービス(最終便益)の提供に至るまでの流れをエネルギーチェーンと呼ぶ。
長期的なCO2排出量の削減に向け、持続可能で効果的な対策を検討するには、エネルギーチェーン全体を俯瞰し、特定のエネルギーチェーンの対策と、電化等エネルギーチェーンの構造変化の対策の相乗効果等も考慮する必要がある。
エネルギーチェーン全体の視点からの低炭素化対策の検討事例を三つ紹介する。
第一は、電化ならびに高効率なエンドユース機器の利用に関する検討事例である。暖房・給湯の熱供給や自動車による移動等のエネルギーサービスに至るまでには、複数のエネルギー供給の経路がある。それら様々なケースを想定したエネルギーチェーン全体の分析では、高効率ヒートポンプや電気自動車の普及が省エネとCO2排出量の削減の効果を持つ等、電化による低炭素化の有効性が示唆されている。
第二は、太陽光発電や風力発電等の変動性の再生可能エネを大量に活用する検討事例である。再生可能エネの変動を吸収し、電力需給バランスを調整するには、電力貯蔵、電力の水素変換(パワーツーガス)、ヒートポンプ給湯機や電気自動車等のエネルギー貯蔵機能のある機器の活用、またデマンドレスポンス(DR)等の電力需要側資源の活用が考えられる。ヒートポンプ給湯機および電気自動車の電力需要の時間パターンを夜間固定から、柔軟な時間パターンに変更したケースの試算では、再生可能エネの出力制御の回避、一次エネルギー量とCO2排出量の削減、電化率の上昇等が定量的に示されている。このとき、電気自動車等の電力需要は、太陽光発電の出力が発生する日中へシフトする傾向になる。(エネルギー・資源学会論文誌2019年11月に掲載)
第三は、長期的な低炭素化を目指す上での二次エネルギーの検討である。現在の主要な二次エネルギーである電力、石油製品、都市ガスを比較すると、電力だけが無炭素エネルギーであり、利用時に大気へCO2が排出されない。一方、炭化水素系二次エネルギーの利用時には、CO2回収対策を行わない限り、大気へCO2が排出される。この場合、炭化水素系二次エネルギーを含むエネルギーチェーンにおいて、カーボンニュートラルを実現するには、一次エネルギーの非化石化による合成燃料化だけでは不十分であり、エネルギーチェーンのどこかで、大気からCO2を吸収するプロセスが必要になる。ただし、現時点では大気からCO2を吸収する商業資源・技術はバイオマス関連に限られる。また、二次エネルギー生産に必要な一次エネルギーの非化石エネルギー比率は、2018年度において電力約21%、石油製品約0.3%、都市ガス約0.01%であり、電力で高い。これは、電力の生産に多様な再生可能エネ発電や原子力発電等の非化石エネルギーが利用可能なためである。これらは長期的な低炭素化を目指す上で、二次エネルギーとしての電力と、それを利用するための電化の重要性を示唆している。
前述の第一、第二の検討には、当所開発のエネルギーチェーン評価モデルを活用した。これは、電力および非電力エネルギーを対象に、わが国の長期的なエネルギーチェーン全体を評価可能なモデル(JP-BETモデル)である。評価モデルでは、エネルギーチェーン全体のコストを最小化する。また変動性再生可能エネの大量導入に関わる電力の同時同量や予備力等の制約、電力貯蔵、水電解水素生産等、詳細な電力部門を含んでおり、エネルギーチェーンの構造変化による電化や水素化も考慮可能である。
今後、エネルギーシステムは、電力貯蔵、パワーツーガス、炭素回収・利活用・貯留 (CCUS)等、複雑化していく。効果的なエネルギーシステムの評価には、エネルギーチェーン全体を俯瞰する視点が重要であり、評価モデルの整備と活用が不可欠である。
電気新聞 2020年12月23日掲載