我が国の仮想発電所(VPP)実証事業は、需要側リソースによる柔軟性確保を目的として2016年に始まり、当初は指令システムの構築やリソースの計量、応答性の確認に主眼が置かれていた。VPP実証は5年目に入り、試験内容は秒単位の反応を求められる高速カテゴリへと広がってきた。また、VPPビジネスや関連サービスを提供する企業も既に国内に登場しており、実ビジネス分野としての発展が期待されている。ここでは、VPPの進展にまつわる今後の課題について解説する。
VPP実証事業から浮かび上がった制度面での課題は、エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス検討会を中心に議論されている。特に最近では、市場整備、ライセンス制度の導入等、VPPビジネスの今後の健全な発展にまつわる課題が議論となる。需給調整市場整備に関しては、国のロードマップが示されており、来年4月から2024年4月にかけて、徐々に運用が開始される。一次調整力、二次調整力①・②等の登録要件や評価方法等の議論は検討中の項目である。
電力システムの計画・運用の観点から、検討が必要な事項としては、配電システムの状況の見える化がある。今後リソースが拡大して配電系統に連系されるリソースをたくさん持つ事業者が現れた場合、配電線の混雑状況等により、見込んだリソースが実際には利用できないことも想定される。その際、当該事業者等が配電線の混雑状況を確認できるよう、配電線に接続される分散リソースの管理・監視システム(DERMS)を導入し、透明性を確保する環境の整備が不可欠である。
VPP事業において、収入源をどう構築するかは最も悩ましい課題である。世界最大のVPP事業者と呼ばれるネクストクラフトヴェルケ社では、リソース保有者に、リソース遠隔制御機能を単に提供するだけでなく、アグリゲートしたリソース群の適切な市場入札によって需給調整市場から収入を得る、インバランスへのペナルティ支払いを減らすといった便益を提供している。
米国PJMやドイツの需給調整市場では、高速カテゴリであるほど高い落札価格で取引されており、一部のVPP事業者も市場に参加して収入を得ている。日本の需給調整市場における価格の予測は困難であるが、仮に日本においても高速カテゴリの価格が高くなるとすれば、相応の速度で応答できるリソースを多数見つけ、束ねることができるかどうかが、重要な技術課題である。ネクストクラフトヴェルケ社では、高速カテゴリの需要側リソースは主に自治体等が保有するバイオマス発電所や大規模の電力消費機器等が主体であった。しかし、直近では徐々に小規模リソースを用いた事業者も登場している。
小規模リソースの統合制御では、通信・計測・制御装置がリソースごとに必要になると考えられ、大型リソースに比較すると固定費がかさみやすく、競争力を持つための何らかの工夫が必要である。
米国では、2秒ごとの指令に対応し続ける周波数調整市場において、一万台以上の家庭用電気温水器をリソースとして用いるアグリゲータが出現している。この事業者は、新築の集合住宅建設時に、対象とする機器を一括で調達し、近距離無線通信が届くように設置し、調整力としての使用権込みで制御・通信装置を設置することで小規模リソースの統合制御を実現している。一つの携帯端末から近距離無線通信を用いて複数の機器端末を制御し、秒単位の通信も実現している。コスト低減の直接的な要因は、通信端末の台数削減によるものであるが、集合住宅の建設計画の段階から参画することがポイントである。
将来の電力系統の脱炭素化の実現に向け、柔軟性の大幅な拡大は必要不可欠である。VPPがビジネスとして健全な発展を遂げるため、VPPを取り巻く新たな制度、電力システムの計画・運用のさらなる高度化、そしてVPP事業者の技術開発努力の3つが揃うことが必要であろう。
電気新聞 2020年12月9日掲載