菅首相は先月行った所信表明演説において、2050年までに温室効果ガス(GHG)排出を日本全体としてゼロにすることを宣言した。演説中では、その鍵となる手段として「次世代型太陽電池、カーボンリサイクルをはじめとした革新的なイノベーション」が挙げられ、「徹底した省エネルギー」も言及された。一方、世界におけるGHG排出削減手段はどう考えられているだろうか?
EUの世界エネルギー・気候アウトルック2019では「低炭素実現のための電化」がテーマとして取り上げられた。2050年に2℃シナリオを満たすには、世界全体で48.5ギガトンCO2相当の排出削減が必要であり、その削減手段の内訳は農業・森林・土地利用が22%、供給側対策が38%、需要側対策が40%と見積もられている。供給側対策と同じくらい、需要側対策も重要だと読み取れる。その需要側対策のうち、需要側機器の「高効率化(省エネルギー化)」と「電化」で過半を占める。
電化とは、エネルギー供給側の脱炭素化に合わせて、エネルギー需要側も化石燃料から電気に替えることで、GHG排出を削減することを指す。
従来、政策がエネルギーシステム全体へ与える影響を定量的に理解し、複数の手段を比較評価するため、エネルギーシステムのシミュレーション解析モデルが用いられてきた。全体最適を図りながら電化を促進する上でも、解析モデルは必須である。
しかし従来の解析モデルでは、化石燃料供給や大規模発電、送電に重点が置かれることが多かった。ネットゼロ達成への過程で電化がどう進展するかを解析するためには、再生可能エネ導入やエネルギー需要の電化の詳細な解析が必要となる。
近年、これらの点を詳細化した先進的なモデルが米国で開発されている。ここでは、低炭素な電力源である再生可能エネの各地域の導入量を解析するモデルと、需要家のエネルギー機器選択行動によって変化するエネルギー需要を予測するモデルの、二つの解析モデルを紹介する。
再生可能エネの地域別の詳細な導入量に焦点を当てた解析モデルが、米国の国立再生可能エネルギー研究所(NREL)の開発した「ReEDS」である。この再生可能エネ設備容量予測では、例えば太陽光発電は米国を134地域に分け、潜在資源量を9段階の強さで分析する。
特徴として、再生可能エネ資源は無制限に電力系統に導入される訳ではなく、現実的に導入可能な容量を計算する。そのため、系統の予備力や発電機の運用上の制限、送電容量や政策等の制約を考慮する。また、再生可能エネ予測誤差を推計し、エネルギー貯蔵技術も考慮した上で、再生可能エネの出力抑制量を計算する。
NREL等は本モデルに基づき、需要の電化の長期的影響を評価した報告書を米国エネルギー省へ提出した。
将来の需要側のエネルギー源選択を表現できる解析モデルが、米国電力研究所(EPRI)の開発した「US-REGEN」である。米国48州毎に電力系統モデルと経済モデルの組み合わせにより構成される。
この解析モデルは需要側のエネルギー源選択を組み込むため、空調や給湯、乗用車等について、需要家の機器選択行動を表現する入れ子ロジットモデルを用いている。この手法は、エネルギー源別価格に応じた需要家の選択によって変化する将来の市場シェアを推計し、機器の経年入れ替え時に燃料代替が起こる様子を表現できる。
EPRIは本モデルを基に、米国電化評価報告書を著した。
GHG排出ゼロを達成するには、省エネだけでなく電化が不可欠であり、電化技術の研究開発と共に政策的支援が求められる。その際、電化の影響の定量的な把握と、様々な政策手段の横並びの比較評価が必要である。
当所は、我が国の特徴を踏まえた詳細な再生可能エネ導入解析モデルと、需要家の機器選択行動を織り込むエネルギー需要解析モデルの両面からの研究開発を進めていく。
電気新聞 2020年11月25日掲載