電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(217)
発電所の長期運転は技術的に可能か?

米国ではターキ―ポイント3、4号機(TPN3/4)が2019年12月に、ピーチボトム2、3号機が2020年3月にそれぞれ運転期間を60年から80年に延長する2回目の運転期間延長(SLR)審査に合格し、いよいよ80年運転が現実味を帯びてきた。本稿では審査に向けた取り組みや審査概要を示すと共に、SLR審査から見えてきた長期運転の技術的な可能性について述べる。

技術基盤の整備

機器・構造物の経年劣化管理の観点からSLRを考える場合、さらなる20年の運転延長期間で進行する劣化を考慮しても機器の健全性が確保できるか否か、60年運転では想定されていなかった新たな劣化メカニズムを持つ事象(潜在的劣化事象)が想定されるか否かを判断できる技術基盤を整備する必要がある。米国電力中央研究所(EPRI)やエネルギー省(DOE)、米国原子力規制委員会(NRC)を中心に80年運転に向けた研究開発が精力的に実施された。これらの成果を基に原子力エネルギー協会(NE1)のSLR申請書作成ガイドライン(NE117-01)や各種の評価手法が整備された。一方、審査を行うNRCは従来の運転期間延長審査の基本方針を維持した上で、経年劣化管理の教訓・知見集および標準審査指針としてGALL-SLR、SRP-SLRを整備した。なお申請者が個別機器についてGALL-SLRに準拠する経年劣化管理を行う場合には、審査を簡略化するとした。また、潜在的劣化事象については各国の材料劣化の専門家を集めた検討を行い、潜在的劣化事象は想定されないと判断した。

事業者の申請準備

事業者の取組みをTPN3/4を例に説明する。同プラントの所有者であるフロリダパワー&ライト社は、60年の運転期限(2032年)の17年前となる2015年からSLRの検討を開始した。早期に検討を開始した理由は、対応を要する課題が見つかった場合に備えて十分な対応期間を確保するためである。整備された技術基盤や運転経験を基に機器を機能や系統毎に分類・整理し、経年劣化管理が必要な機器を抽出した。抽出した機器に対してGALL-SLRをベースに経年劣化管理の方針と計画を作成し、技術情報として取り纏めた。この技術情報と一般情報および環境情報を合わせたSLR申請書を2018年1月に申請した。

SLR審査

NRCは、先に述べた基本方針に基づき審査を行っている。審査では経年劣化管理対象機器の選定、80年までの経年劣化管理方針・計画の妥当性を中心に審査を行った。審査中に追加情報が必要な場合には、追加情報要求を出して事業者に説明を求めた。審査の結果、更なる検討や対応が必要と判断された項目について申請者に運転期間が60年に達する半年前までに対応するという誓約書を提出させた。NRCはこの誓約履行を前提に申請から24カ月後の2019年12月に申請を認可した。米国のSLR審査は、80年運転に必要な技術基盤は確立可能であること、これに基づく個々の発電所の経年劣化管理計画を評価することにより、80年運転の審査が可能であることを示している。

日本における長期運転に向けた取組み

日本では高経年化技術評価制度と運転期間延長制度により60年運転が可能となっている。これを支える技術基盤をより確かなものとするために電力中央研究所を中心とする研究開発や国際原子力機関(IAEA)および経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)の関連活動への参加による最新知見の把握が続けられており、その成果は学協会の関連民間規格に反映されている。また、本稿では紙面を割くことができなかったが、長期運転に向けて設計の旧式化や製造中止品への対応などの課題についても原子力エネルギー協議会(ATENA)を中心に検討が深められている。個々の事業者は、自主的安全性向上活動を精力的に実施しており、安全性向上にも注力している。これらの取組みを継続することにより、安全性を確保しつつ長期運転を実現する技術基盤はさらに強固なものとなると考えられる。

著者

新井 拓/あらい たく
電力中央研究所 軽水炉保全特別研究チーム副リーダー 研究参事。
1988年入所。専門は材料劣化評価。博士(工学)。 

電気新聞 2020年9月30日掲載

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