現在、世界では約440基の発電用原子炉が運転中である。このうち約2/3が運転年数30年以上、1/4が運転年数40年以上であり、発電炉の経年化が進んでいる。日本においても廃炉および建設中を除いた33基のうち14基は運転開始からの年数が30年を超え、うち4基は40年を超えている。米国では、運転期間を40年から60年に延長する1回目の運転期間延長申請に90基以上が合格し、60年運転が主流となりつつある。さらに運転期間を80年に延ばす2回目の申請(SLR)に4基が合格し、80年運転が現実味を帯びてきた。原子力発電は有効な低炭素電源として期待されており、経済開発協力機構/原子力機関(OECD/NEA)においても長期運転に関する検討が行われている。発電所の運転期間に関する制度は国により異なる。米国のように運転期間を定め、これを更新することで運転期間の延長を認める方式とフランスに代表される運転期間に制限を設けずに10年毎に定期安全レビューを実施し、これに合格すれば次の10年の運転を認める方式がある。日本は両者を組合せた30年から10年毎に行う高経年化技術評価(PLM評価)と運転期間延長制度の2本立てとなっている。いずれの方式においても経年劣化管理を適切に実施できるかが鍵を握る。経年劣化管理で対応すべき項目には、材料劣化、設計や規格・基準の旧式化、知識の陳腐化が挙げられる。このうち最も重要な項目は材料劣化である。
発電所で使用されている材料は、容器や配管等に用いられる鋼製材料とケーブルの絶縁などに使用される高分子材料、原子炉建屋等に使用されるコンクリート材料に大別される。これらの材料は、運転環境に曝されることにより徐々に劣化が進行し、機器の構造健全性や機能が低下する場合がある。材料劣化には様々な現象が存在し、身近な例としては鉄などの金属がさびを生じる腐食が挙げられる。一方、原子力発電所特有の例としては原子燃料の核分裂により発生する中性子の照射により原子炉圧力容器が脆化する中性子照射脆化などがある。発現する劣化現象は、炉型が同じであれば基本的に同じであり、対応方針や評価の基本は国によらず基本的に同じである。腐食などの一般的な劣化現象でかつ交換可能な機器に生じる材料劣化については、日常点検や定期検査などの日常保全で対応する。中性子照射脆化など原子力発電特有でかつ交換が難しい機器に生じる劣化事象については、ある評価期間(例えば60年)を設定し、評価期間末期までの機器の健全性を確認する経年劣化評価で対応する。経年劣化評価の実施は各国の制度に依存する。日本ではPLM評価や運転期間延長申請時に、米国では運転期間延長申請時に経年劣化評価を行っている。
経年劣化評価を的確に行うためには、劣化予測手法や機器の健全性を評価する手法の整備が不可欠である。1980年代後半から世界各国において劣化予測や健全性評価確立を目的とした研究開発が精力的に実施されている。日本では電気事業者の研究に加え、発電技術検査協会などにおいて国の研究プロジェクトが行われ、その成果が日本原子力学会「高経年化対策実施基準」に反映されている。
国際原子力機関では、経年劣化管理に関する基本的な考え方を示すガイド(SSG-48)を策定すると共に、各国の運転経験や管理手法を基に各機器に対する経年劣化管理プログラムや経年劣化評価の基本を示すIGALL報告書(SRS-82)を発行し、継続的な改定を進めている。IGALL活動には、日本からも原子力規制庁と電気事業者が参加し、日本の運転経験や評価手法に関する知見を提供するなど策定に貢献している。また、OECD/NEAにおいても作業会を設置し、経年劣化対応に関する情報共有を図っている。
以上述べたように事業者が行う材料劣化対応、これを支える技術開発、国際機関の取組みが一体となり、各国における40年超運転を実現している。次号では、米国のSLRの概要などを紹介し、60年超運転に関する技術的な可能性について述べる。
電気新聞 2020年9月16日掲載