太陽光発電、風力発電に代表される再生可能エネの導入が進展しており、将来の脱炭素化の観点からも主力電源化が期待されている。これらの電源は電力系統に変換器(インバータ)を介して連系する電源(以下、変換器連系電源)が主体となっている。今回から3回にわたり、変換器連系電源が主体となった電力系統において、電力系統の安定性(周波数、電圧、系統安定度)を確保するために必要となる技術開発や課題について解説する。
第1回目は火力発電や原子力発電などの大容量同期発電機(以下、発電機)の系統安定化への貢献について説明する。現在の交流を主体とする電力系統の安定性、特に系統事故時の安定性は発電機が持つ能力(表)への依存が大きい。
表 大容量同期発電機の系統安定化への貢献
発電機は周波数(発電機の軸の回転速度)に応じて、蒸気タービンを回すための蒸気の量(または水車を回すための水の量)を変えることで、有効電力*1を調整することが可能である。これにより、電力系統の周波数を一定に保つことに貢献している。さらに、発電機は大きな慣性(回り続けようとする力)を持っている。自然災害などに起因して発電機が急停止すると、電力系統全体の有効電力の発電量と消費量のバランスが大幅に崩れ、周波数が変化し、最悪停電のおそれがある。発電機が持つ大きな慣性は、この周波数の変化速度を緩和させるため、系統事故時の電力系統の安定には特に重要な役割を果たす。
*1 有効電力:実際に仕事をする電力。単位はW(ワット)。これが余ると電力系統の周波数が上昇し、不足すると周波数が低下する
落雷などの系統事故時に一時的に電力系統の電圧が低下する、いわゆる瞬時電圧低下が発生する。その場合でも発電機は停止せずに運転継続し、さらに系統事故中および事故後にも無効電力*2を出力し続けることで、電力系統の電圧低下を抑制することができる。これにより、電圧の維持に貢献している。また発電機は大量の無効電力を瞬時に供給または吸収することで基幹系統の電圧調整が可能であるため、電圧および系統安定度の維持にも貢献する。さらに、発電機は現在主流の電流制御型インバータが安定に動作するために必須となる系統の短絡容量*3の確保にも貢献している。
*2 無効電力:基幹系統では主に電圧に影響する成分。単位はvar(バール)。これが余ると電圧が上昇し、不足すると電圧が低下する
*3 短絡容量:系統事故時の短絡電流の大きさの目安であるが、ここでは「その地点の電圧維持能力を表す指標」と考えてよい
慣性は発電機の軸の加速・減速を緩やかにするため、系統安定度にも貢献する。さらに、電力系統に接続されているすべての発電機は同期して同じ速度で回ろうとする性質(この力を「同期化力」と呼ぶ)があり、周波数と系統安定度の維持に貢献している。
これまで説明してきた系統安定化に貢献する発電機の能力は、再生可能エネなどの変換器連系電源には十分に備わっていない。今後、変換器連系電源の増加に伴って発電機が減少していく中でも、系統安定化のために発電機の持つ能力を確保していくことが重要である。
なお、電力系統の安定性(周波数、電圧、系統安定度)について、詳しくは電力中央研究所公式HPの「電気を安定して送るために」(YouTube)を視聴されたい。
電気新聞 2020年5月27日掲載