当研究所の経営層による寄稿やインタビュー記事等を紹介しています。
電力中央研究所 理事長 平岩 芳朗
託送料金は一般送配電事業者が送配電設備の建設・維持・運用や、需給・周波数調整などの業務に必要な費用を小売電気事業者から回収する規制料金である。小売電気事業者は電気料金の一部として、需要者からこれを回収する。 託送料金の費用構造が概ね固定費等9割、可変費1割であるのに対し、料金構成は概ね基本(kW)料金3割、従量(kWh)料金7割と費用と異なり従量料金への依存が大きい。
加えて、再生可能エネルギーや蓄電池を設置し自家消費が増え系統電力の使用電力量が減少する需要者が増加することが想定され、また、単身や二人世帯など使用電力量が少ない需要者が6割を超えている。
このため、送配電費用の需要者負担の公平性を確保しつつ、高経年化が進む送配電設備を維持し、再エネ導入対策など次世代電力ネットワークを構築していくために、託送料金の構成を費用構造に近づけ、基本料金比率を高め、従量料金比率を下げていく必要がある。
低所得世帯の保護は使用電力量による判別が困難なため、料金とは別に政策的に扱われるべきと考える。
託送費用の負担には、一般負担と特定負担がある。前者は一般送配電事業者が負担し最終的にエリア内のすべての需要者に広く薄く負担いただくものである。後者は特定の発電者や需要者が専用する送電線等を一般送配電事業者などが建設する際、その費用について原因者であり便益を享受する特定の事業者に負担頂くものである。
風力や太陽光発電などの変動性再エネが大量に連系されたカリフォルニアISOでは、一日の残余需要曲線はいわゆるダックカーブが過去のものとなり、底がゼロで急峻なキャニオン(渓谷)カーブの状況となった。わが国もこうした状態に近づくと考えられる。残余需要の日変化や再エネ予測誤差が大きくなると、調整力の重要性と価値が高まる。
需要者においては、変動性再エネの自家消費が進むと、電力系統と接続することで周波数や電圧などの品質が確保された電気を安定的に利用できる『接続する価値』が高まる。この価値(アンシラリーサービス)の提供に要する調整力(三次②以外)や系統安定化(潮流調整や電圧調整等)の費用は託送費用に含まれている。将来、変動性再エネや蓄電池などの非同期電源が大量導入されると、火力発電などの同期電源が当たり前のように提供してきた慣性力や同期化力などの系統安定化機能の確保策も重要となる。
また専門的な話となるが、非同期電源が大量導入される場合に技術的に重要と思われることを記しておきたい。電力系統の事故時(短絡等)に保護リレーが電源から事故点に供給される事故電流を検出、故障様相を判別し故障区間を切り離す自動制御を行っているが、非同期電源は供給できる電流の上限が同期電源よりも低く、その影響把握と対策の検討が必要である。
電気料金は電源構成や燃料調達コスト、賦課金や税など制度の影響を受け、国際比較は為替の影響も受け注意を要するため、最後に触れさせて頂く。
家庭用および産業用の電気料金を国際比較する(2022年時点)。
『欧米』と一括りにされがちだが、米国内でも料金の高いマサチューセッツ州と料金の低いワシントン州では2倍から3倍の開きがある。欧州でも、再エネ比率が高く原子力比率が低下したドイツや火力比率の高いイタリア、公租公課の高いデンマークなどはわが国より電気料金は割高となっている。一方、原子力比率の高いフランス(62%)や水力発電比率が高いカナダ(61%)の電気料金は低位である。
韓国(原子力比率28%)は政府系が株式の51%を所有する韓国電力公社の実質一社体制であり、輸出製造業を支援する目的などから政策的に電気料金が低く抑えられている。このため近年の化石燃料価格の高止まりにより同社は大幅な赤字が継続している。
このように各国の国情が大きく異なる中、「日本の電気料金は欧米や韓国と比べて高い」という表現は正確性を欠く。また「世界で最も高いと言われる日本の電気料金」と最近まで言及される人もいたが、近年の実態と背景をご理解頂きたい。
電気新聞 2024年10月2日掲載
※発行元の一般社団法人 日本電気協会新聞部(電気新聞)の許可を得て、記事をHTML形式でご紹介します。