当研究所の経営層による寄稿やインタビュー記事等を紹介しています。
電力中央研究所 理事長 平岩 芳朗
電力需要も最大電力などの需要の高さ(kW)と電力量(kWh)の両面がある。供給計画などにおいて電力需要に関わる各種の電力量があるため、『どの需要か』という共通認識の下、適切に使い分けていく必要がある。
使用端電力量(以下、需要電力量)は、一般送配電事業者の流通設備を通じて供給される電力量である。需要家の電力需要はこの需要電力量と、自家用発電設備の発生電力量のうち自ら消費する「自家発自家消費」需要の合計である。
送電端電力量は、需要電力量に送配電損失量と変電所所内電力量を加えたものであり、発電機で発電される発電端電力量から発電所所内電力量を差し引いたものでもある。供給計画や電力需給検証の需給バランスで扱う電力需要は、基本的に送電端の数値である。
残余需要は、送電端需要から自然変動電源である太陽光発電(自家消費分を除く)や風力発電の出力を控除したものである。残余需要に対し火力・原子力・水力発電などを用いて電力供給と調整を行い、一般送配電事業者は調整力として活用し最終的に需給を一致させている。これが残余需要に着目する理由である。
エネルギー基本計画など国全体のエネルギーをどのようなリソースで賄うかを検討する際の電力需要は、発電端電力量(揚水動力や蓄電池の充放電損失を含む)と自家発自家消費を加えたものとなる。
将来、蓄電池などのエネルギー貯蔵装置の役割が高まり普及拡大した場合、その充放電損失は国全体の電力需要でみれば重要な要素となる。また需要家において、脱炭素化や再生可能エネルギー発電促進賦課金(FIT)回避のために再エネなどに由来する自家発自家消費が大幅に拡大すると、国全体の電力需要が増加しても、電力系統経由で供給される需要電力量は伸び悩む状況も生じ得る。
どの電力量に着目するかによって見えてくる需要動向が異なるため、分析の目的に沿った需要に着目するとともに、必要に応じ、複数の需要を多面的に評価することが重要と思われる。
例えば工場など自家発電設備を設置する需要家が、燃料価格上昇などで自家発を停止して買電に切り替えるケースでは、自家発自家消費分が需要電力量の増加となり、当該電力量を別の電源で補う必要が生じる。
また、大量に導入された太陽光発電も老朽化する時が来るが、仮にこれが適切に設備更新されないケースや厳冬の暖房需要急増時に曇天・降雪が継続して太陽光発電量が減少するようなケースでは、自家消費分が残余需要にシフトする。
小売電気事業者は受給契約の範囲で需要家に電力を供給し、必要な供給力を確保する。一般送配電事業者による最終保障供給の制度はあるが、大量の『需要の戻り』発生に対して、必ずしも社会全体として十分な電源や燃料が確保されているとは限らない。
電力需給検証は送電端の需給バランスについて、厳気象など各種リスクを考慮して検証を行っている。自家発自家消費が増加したことを踏まえ、異常時に自家発自家消費が送電端の需要にシフトすることも想定し、供給力(デマンド・レスポンスを含む)や燃料をどの程度確保すべきかを考えておく必要がある。
年間の最大電力は真夏の平日午後2時~3時に発生することが多く、かつてはこの時間帯を中心に節電をお願いしていたため、今もその感覚のお客さまも多い。太陽光発電が普及した現在、真夏の電力需要が増加する高気温晴天日は、昼間は太陽光発電の出力が期待でき、残余需要は比較的小さい。このため、昼間は健康維持のためエアコンを適切にお使いいただきたい。
真夏に残余需要が増加し需給がタイトになるのは、太陽光出力が減少し高気温とエアコン需要が継続する夕刻以降が多い。なお、燃料制約による需給逼迫対応としては、どの時間帯の節電であっても有効である。
わが国は太陽光発電の普及が際立っており、エアコン需要が少なく電力需要が極めて低い春秋の晴天の週末は、他電源の出力を最大限抑制しても太陽光発電の出力を抑制せざるを得ない状況が生じている。
再エネの有効利用のため、ヒートポンプ稼働の昼間シフトなどにより需要側フレキシビリティを高める必要がある。またカーボンニュートラルに向け、電源の脱炭素化とともに、余剰電力による水電気分解による水素製造、産業プロセスの電化などによる電力需要の創出が重要である。
電気新聞 2024年8月7日掲載
※発行元の一般社団法人 日本電気協会新聞部(電気新聞)の許可を得て、記事をHTML形式でご紹介します。