当研究所の経営層による寄稿やインタビュー記事等を紹介しています。
電力中央研究所 理事長 平岩 芳朗
kW(キロワット)とkWh(キロワット・アワー)は単位の話であり、まさに「次元の異なる」概念だが、混同して使われることもある。エネルギーや電気について語る時、両者の違いを理解し、区別して使用する必要がある。
kWとkWhの関係は、「瞬間のパワー」と「パワーを発揮し続けた時のトータルのエネルギー」の関係といえる。kWは発電時や電気を消費する時の「瞬間のパワーの単位」であり、発電設備や電気製品の容量、自動車エンジンの能力にも使われる。これに対し、kWhは表示の如く、瞬間のパワー(kW)の時間(h)積分(kWh)であり「発電量や電力消費量というエネルギーの単位」。これは発電用の燃料や水力発電の水量と関連する。
『太陽光発電100万キロワット。大型原子力1基相当を開発』
このようなメディアの表現が散見されるが、世の中をミスリードするのではないかと懸念する。発電能力の最大値は比較できるものの、異なる種類の発電設備を比較し「相当」と表記する以上、発電能力(kW)だけでなく、期待される発電量(kWh)や出力の安定性なども含めて評価すべきである。
太陽光発電と原子力発電の発電容量1キロワットあたりの発電可能量(kWh)を、発電設備の稼働率(一定期間の発電電力量の期待値を設備容量×時間で除した値)で大ざっぱに比較してみよう。
①~③を勘案すると0.5×0.5×0.5=0.125となり、太陽光発電の平均稼働率は13%程度となる。この値は国内太陽光発電の稼働率実績に近い。一方、原子力発電の平均稼働率は定期点検などを考慮しても80%程度。同じ発電容量(kW)でも、発電量(kWh)に直結する稼働率の差は歴然だ。
『太陽光発電100万キロワット。大型原子力1基相当を開発』という表現は、事情を知らない読者や視聴者に「太陽光発電を100万キロワット建設すれば大型原子力1基分を廃止できる」ようなイメージも想起させ、ミスリーディングである。
現在、長期的なエネルギーの安定供給確保と脱炭素化の両立を目指し、S+3Eをエネルギー政策の基本方針として、エネルギーミックスのあり方を含むエネルギー基本計画改定の議論が進められている。各種電源はそれぞれ特質と課題、技術開発要素を有し、目標とする組み合わせを論じる際、国民に電気やエネルギーに関する基本事項を正しくご理解いただくためには、多面的に客観的情報を分かりやすく発信していくことが重要である。
近年、厳寒や季節外れの高気温による電力需要の急増、また災害による電源の計画外停止に起因した需給ひっ迫が発生している。
こうした際の供給力の低下には二つの様相がある。一つは発電機トラブルなどにより発電設備の能力(kW)が低下するケースであり、もう一つは発電設備の能力(kW)は健全でも、十分な燃料投入(kWh)ができず、発電設備の能力(kW)をフルに発揮できないケースである。
後者は、想定以上に高い電力需要が何日も継続し(厳気象などにより再エネ出力低下が継続する場合も同様の状況が生じる)、火力発電に必要な燃料が調達能力を超える場合や、計画した燃料調達に支障が生じる場合が考えられる。需給変動に対応するには、必要な分の設備容量(kW)と燃料(kWh)が確保されなければならない。
揚水発電や蓄電池などのエネルギー貯蔵設備は、揚水や充放電にエネルギーを使う。その原資となる火力発電量が燃料制約などによって制約を受けると、揚水発電や蓄電池の設備能力(kW)はあっても、発電量(kWh)は制約を受ける。また蓄積したエネルギーを何時間(または何日)に分配して発電するかによっても、時々の発電出力(kW)は変化する。
エネルギーの蓄積と発電のタイミングを調整するエネルギー貯蔵設備は将来より重要な役割を果たす。しかし、それ自身はエネルギーを生み出さず、蓄積と発電の正味値では損失分(揚水動力は30%程度)だけエネルギー(kWh)を消費するため、将来のエネルギー需要を想定する際、十分留意する必要がある。
電気新聞 2024年7月3日掲載
※発行元の一般社団法人 日本電気協会新聞部(電気新聞)の許可を得て、記事をHTML形式でご紹介します。