研究資料

2021.03

日英国民の原子力発電と気候変動に関する意識 -福島原子力事故前後に実施された先行研究と2020年調査結果の比較を中心に-

  • 気候変動
  • 原子力

報告書番号:Y20503

概要

背 景

 日英両国は、気候変動への対応策として、低炭素電源の活用を推進する政策を積極的に進めていく必要があるが、低炭素電源の一つである原子力発電の活用をめぐっては国民の間にも様々な意見があり、それが具体的な政策の立案や実現に影響を与えうる。福島原子力事故前後に実施された先行研究では、日本に比べて英国の方が、原子力発電の建設を気候変動緩和策等といった課題に対処するために条件付きで支持する人々の割合が高いことが明らかにされていたが、その背後にある国民のエネルギーに関する期待や懸念についての違い、近年の両国の電源構成の推移、気候変動対策を巡る動きが活発化していることを受けた意識の変化は、日英で比較調査されていない。

目的

 日英一般国民を対象に2020年11月に実施したインターネット調査注1)の単純集計結果について、福島原子力事故前後に実施された先行研究を参照しながら、最近の原子力発電に関する日英国民の意識の違いを確認する。それとともに、原子力発電や他の電源のベネフィット、気候変動や原子力発電のリスクに対する懸念や対策への評価に関する認識に違いがあるかどうかを明らかにする。

主な成果

1. 原子力発電に関する日英国民の意識の違いと変化
 今回調査の結果と先行研究の比較から、原子力発電を支持する条件について日英国民の意識を調査した結果、以下の点が明らかになった。
(1) 条件付きで原子力発電所の建設を受け入れる人の割合
先行研究と同様に、気候変動への取り組み(図1)、エネルギー安全保障注2)に役立つなら、という条件付きで原子力の建設を受け入れる人の割合を、日英の単純集計結果で確認したところ、依然として英国の方が高いことが分かった。なお、日本ではこうした条件を提示せずに増設・建て替えを受け入れる人の割合も同程度で、2つの条件が建設受け入れの判断に大きな影響を与えていない可能性がある。原子力発電の貢献度への認知をみると、供給信頼性や経済性の評価については、日英ともに一定程度の理解がある。
(2) 他の選択肢や手段と比較した時の原子力発電に対する考え方
再エネによる発電シェアが4割近くとなっている英国でも、原子力発電を含んだエネルギーのミックスを支持する割合は日本より高い(図2)。また、原子力発電よりも他のエネルギー源の選択やエネルギー使用量の削減が望ましいと考える人の割合は、日英ともに2005年以降で最も低い水準になっている。

2. 原子力発電に対する意見に影響を与えうる様々な要因に関する日英国民の意識の違い
 原子力発電の支持は、気候変動に対する認知、原子力発電のリスクへの懸念や政策・規制に対する信頼の認知が影響するとの先行研究からの示唆に基づき、関連する様々な要因について日英国民の意識を調査した結果、以下の点が明らかになった。
(1) 気候変動に対する関心や懸念
日英国民の間で気候変動を心配している人の割合はほぼ同じであった。気候変動が人々に与える影響についても、両国の間で大きな差はないことが分かった。ただし、日本と比較して英国の方が、気候変動について何かするように促す責任が自身にあると考えている人の割合は高い。また、日本は「行動を大幅に変化できないため、エネルギー開発が重要」と考える人の割合が英国より高く、気候変動対策としてエネルギー削減などの制約を受けることへの抵抗感を持つ人が多いことがうかがわれる。
(2) 原子力発電や気候変動のリスクに対する懸念
原子力発電に関する様々なリスクへの懸念を感じている人の割合は、全般に英国より日本の方が高いものの、英国でも6割を超えている。原子力発電と気候変動のリスクに対する懸念についての特徴的な違いとして、日本は、原子力発電のもたらすリスクの不公平さを高く認知し、英国は気候変動の次世代リスクを高く認知している。
(3) 原子力発電に関する政策や規制に対する評価
日本は、国の政策や規制への評価が低い。ただし、この傾向は他の課題(気候変動、新型コロナの大流行)についても同様である。一方、英国は、原子力発電に関する政府の対応能力、情報提供、決定方法の公平さ等について、他の課題への対応と比べても評価が高い。日本は、安全規制の強化と安全性向上の対策を進めているものの、福島原子力事故を教訓に安全になっていると考える人の割合は、英国より低い。

今後の展開

 低炭素電源としての原子力発電に対する消極的支持態度の日英の違いとその要因等について、詳細な解析を行う。

キーワード

原子力発電、気候変動、リスク、受容性、アンケート調査

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