研究資料

2020.04

総合エネルギー統計を用いた事業用電力の業種別価格弾力性・生産弾力性の推定

  • エネルギー需要
  • 経済・社会

報告書番号:Y19512

概要

背 景

 リーマンショックや東日本大震災といった外生的ショックや省エネ機器・自家発の導入などの内生的変化によって、省エネ・節電行動などの需要家行動に変化が生じた可能性が考えられ、需要想定の精度を大きく左右することから、需要家行動の変化が電力需要に及ぼす影響の精密な評価が求められている。

目的

 需要家行動の変化を表す価格弾力性および生産弾力性に変化が生じているのか、総合エネルギー統計を用いて、産業・業務用電力需要(自家発除く)に関する実証分析を業種別に行う。需要家行動を精緻に把握することで、需要想定評価用モデルの開発及び予測精度向上の一助となる。

主な成果

1. 推定パラメータ(弾力性など)の経年変化に関する分析
 状態空間モデル(図1)を用いて、産業・業務用電力需要に対する業種別価格・生産弾力性1)に経年変化が生じているのか、情報量規準2)に基づくモデル選択によって分析を行った。先行研究3)では、産業用電力需要(全国計)に対する価格弾力性では経年変化がみられ、一方で生産弾力性には経年変化はみられないという結果であった。しかし、本研究では弾力性に経年変化を考慮しないモデルが選択され、価格・生産弾力性ともに経年変化はみられなかった。一方、トレンド成分(切片項)には経年変化がみられ、経済・気象以外の要因を深掘りしていく必要があることが分かった。

2. 業種別価格・生産弾力性の推定
 産業部門の「製造業」では、価格弾力性と生産弾力性はともに統計的に有意となったが、業種別の推定結果をみると、「パルプ・紙・紙加工」、「化学」で価格弾力性が統計的に有意に負値となった以外、多くの業種で有意とはなっていない(表1)。一方で、生産弾力性は、価格弾力性と比べて、多くの業種で統計的に有意に正値となる傾向がみられる(表2)。また、先行研究では生産弾力性が1.0 以上(弾力的)となっているが、本研究では1.0 未満(非弾力的)となり、生産量の変化ほどには購入電力の変化は小さい可能性が示唆される。例えば生産活動に応じて、自家発を活用している場合には、外部からの購入電力と生産量との関係が弱まり、非弾力的になる可能性も考えられる。また、購入電力の用途が主に照明や空調である場合には、生産活動の影響を受けづらいので、非弾力的となる可能性も考えられる。業務部門の価格弾力性は、「宿泊業・飲食サービス業」で統計的に有意で負値であるが、その他の業種では有意とはならなかった(表3)。本研究では生産弾力性に加え、延床面積に対する弾力性を推定したところ、「卸売業・小売業」を除き、統計的に有意で1.0 以上(弾力的)となる傾向がみられた(表4)。

3. 需要想定評価用モデルへの活用
 本分析では、推定パラメータの経年変化を考慮したモデル(図1)を構築し、業種別価格弾力性と生産弾力性の推定を行った。これらのモデルを活用するとことで、リーマンショックや東日本大震災といった外生的ショックや省エネ機器・自家発の導入などの内生的変化に対して、より柔軟な需要想定評価用モデルの構築が可能となり、予測精度の向上が期待される。

今後の展開

 地域別の業種別電力需要の価格弾力性と生産弾力性に関する計量分析を行い、地域間差異について調べる。

キーワード

業種別価格・生産弾力性、総合エネルギー統計

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