概要
背景
福島原子力発電所事故後、原子力発電所の一部は再稼働したものの、種々の理由でその基数は少数に留まっており、エネルギー安全保障確保への懸念が生じている。一方で、原子力の特長である「電源としての頑健性」、すなわち発電所内及びサイクル施設内に貯蔵されている核燃料物質(ここでは使用済燃料は含まない)を用いて一定期間の発電が可能であることに対して、2017年9月29日の米国エネルギー省提案等であらためて注目が集まっている。しかし、我が国ではこれを定量的に評価した先行研究に乏しい。今後のエネルギー基本計画を含めた我が国の電力・エネルギー政策においても、「電源としての頑健性」に関する議論の適切な反映が求められる。
目的
備蓄それ自体を目的としない通常操業時のランニングストックを「潜在的備蓄」と定義し、原子力の潜在的備蓄の規模と価値を算定することで、適切な電力・エネルギー政策策定の参考情報として提示する。
主な成果
1. 潜在的備蓄効果の推計結果
2016年12月31日現在の核燃料物質在庫量データを用いて、以下の条件で原子力の潜在的備蓄効果を推計した。
・フロントエンドに関わる燃料加工サービス(ウラン濃縮、再転換、ウラン燃料加工)施設及び商業用発電所において、通常操業時のランニングストックとして所持している核燃料物質を対象とする。
・国外からの燃料供給遮断時に、どのような運転状態にあってもその後1年間の運転継続が可能とする。
・日本国内の原子力発電設備容量3,917万kW(2018年2月13日現在で40基)を1基当たり100万kW換算で40基相当と見なす。 40基が全て稼働し、1年当たりのウランの消費量が最大となる場合を想定しても、原子力の潜在的備蓄効果は約2.90年(各発電所における保有期間(1年)とランニングストックの潜在的備蓄効果(約1.90年)の合計)となる。参考までに、同規模のエネルギー量を現状の石油備蓄の形態で保持すると仮定すれば、1年当たり3,559億円相当の費用を要することになる。
2. 先行研究との比較
原子力の潜在的備蓄の一次エネルギー換算値は8.72EJから8.61EJに1.26%減少している。その一方で、原子力発電所の基数は50基から40基に20%減少していることから、原子力の潜在的備蓄効果は2.35年から2.90年へと変化している。変化は見られるものの、原子力発電利用には、2017年9月29日の米国エネルギー省提案で示された「発電所内で90日分の燃料供給力」という目安を上回る潜在的備蓄効果が具備されている点は注目される。 石油備蓄費用との比較によって算出した原子力備蓄の価値は、5,650億円/年から3,559億円/年に37.0%減少しており、原子力の潜在的備蓄の一次エネルギー換算値の1.26%よりも大きな減少幅である。これは、石油備蓄の所要費用が、648億円/EJ/年から414億円/EJ/年に36.1%下落していることによる。