概要
背景
電気事業制度改革が開始された1990年代、わが国の電気料金は、諸外国と比較して高いことがOECDなどから指摘されていた。その後、世界的な燃料価格の上昇や各国のエネルギー政策等に基づく公租公課の増加などを背景に、諸外国の電気料金は上昇しており、わが国との料金格差は縮小されてきた。しかし、東日本大震災以降、わが国の電気料金は再び上昇しており、改めてわが国の電気料金水準に関心が寄せられている。上記に加え、電気料金水準はその国の電源構成やエネルギー政策等に大きく依存する。そのため、国際比較を行う際は、単純にその水準を比較するだけではなく、その背景にある要因を把握した上で、比較評価する必要がある。
目的
電力中央研究所報告 Y11013[1] 「電気料金の国際比較と変動要因の解明-主要国の電気料金を巡る事情を踏まえて-」の料金の国際比較部分のデータを直近の2016年までアップデートするとともに、ディスカッションペーパーSERC15003[2] および電力中央研究所研究資料Y16501[3] で示した、料金水準に影響を与える電源構成や電気料金の構成比など、基礎情報のデータのアップデートを行う。
主な成果
国際エネルギー機関(IEA)の料金データを基に、欧州6ヶ国(ドイツ・フランス・英国・イタリア・スペイン・デンマーク)、北米2ヶ国(米国・カナダ)、韓国、日本の計10ヶ国の電気料金の比較を行い、次のことを確認した。
1. わが国の家庭用電気料金
2016年時点の料金水準を比較すると、日本は概ね中位に位置している。傾向としては、2010年まで下落傾向にあったが、東日本大震災が発生した2011年以降は上昇傾向に転じ、震災以降2014年までは年率で平均5.3%上昇した。しかし近年は、油価下落によりLNG輸入価格が下がっており、その影響を受け、2015年には前年度比1.6%程度の上昇にとどまった。さらに2016年は下落に転じ、前年度比-11.5%の変化となった(図1)。
2. わが国の産業用電気料金
家庭用料金と同様に、2011年の震災までは下降傾向にあったが、その後上昇に転じた。震災後の料金上昇の年率は平均8.5%であったが、2015年からは下落に転じ、2015年は前年度比-1.6%、2016年には前年度比-12.4%と低下傾向が続いている(図2)。その結果、いまだ諸外国よりも高い水準にあるものの、料金格差は縮小している。
3. 諸外国の電気料金水準とその背景
諸外国の電気料金は、2000年代から上昇傾向にある。2011年頃までは燃料価格の上がその主要因となっており、特に、火力発電比率の高い国(英国・スペイン・イタリア・ドイツ)において影響が大きい。一方で、火力発電比率の低い国(カナダ・フランス)においてはその影響が小さく、料金の上昇は小さい(図3)。また近年は、燃料価格は下落する一方で、再生可能エネルギー発電比率が上昇している国を中心に公租公課の割合が増大していることから、電気料金の上昇要因が変化してきている点が指摘できる。米国については、州ごとに傾向が大きく異なっている。水力や安価な国内炭を用いた石炭火力の発電比率が高い州の料金は割安であるのに対し、これらの比率が低く、ガス火力の比率が高い州の料金は割高である傾向が強い。料金が割高な州については、2000年代中頃には日本と同程度の水準にまで至っている。また、一般に、電気料金の高い州が小売自由化を実施したが、自由化実施後も、自由化州と規制州の料金格差は必ずしも縮まっていない。これらのことから、米国における電気料金水準は、自由化の実施の有無よりも、電源構成に強く影響を受けていることが推察される。
キーワード
電気料金、国際比較、電源構成、燃料価格、公租公課