概要
背 景
卸電力市場のボラティリティ上昇を背景に、電気事業者によるリスクヘッジの必要性が強く認識され、先物取引や先渡取引、様々な期間や時間粒度での相対契約のニーズが高まっている。これらの適正価格を計算するためには、細かい時間粒度での精緻なフォワードカーブ(FC) が必要となることから、わが国の電力市場取引実務に向けた扱いやすいFCの構築手法が求められている。
目的
合理的なFCの要件を満たしつつ、既往手法よりも誤差が小さくなるFCの構築手法を提案する。特に、既往手法では、先物価格が極端に高騰した場合に、計算されるFCが不自然に「うねる」欠点を持つことが最近の研究で明らかにされていることに鑑み、この欠点を改善する頑健かつ精緻なFCモデルを構築する。また、東京商品取引所(TOCOM)の先物市場の取引実務に向け、表計算ソフトによる計算ロジック作成のための基礎的考え方を整理する。これに基づき計算されたFCは、相対契約の評価やデリバティブのプライシング等、様々な電力市場取引実務への活用が期待される。
主な成果
1.新たなFC構築手法の提案
電力FCは、「先物価格が該当期間のFC平均価格に一致すること」(アービトラージフリー条件)や「滑らかな連続性」などの条件を満たす必要があることが先行研究で整理されている。これらの条件を満たす代表的な既往手法では、先物価格が高騰した場合に、FCの当てはまりが顕著に悪化する問題が指摘されている。そこで、近年わが国でも多発している価格高騰が生じた場合にも当てはまりが悪化しないような、新たな「スムージングモデル」を開発した他、更なる予測誤差の改善に向けて、外生変数の扱い方を変化させた「価格パターンモデル」も複数構築して比較検証を行った(図1~図3)。
2.実証分析1) 提案手法による予測誤差の改善(価格パターンモデル間比較)
休日の価格低下効果を年間一定ではなく、年の周期性を持たせることで、平日・休日の価格差が季節別に滑らかに変化するFCを推定し(図4)、予測誤差を改善した。これに加え、気温感応度や経年変化の季節性などをモデルに組み込むことでも、当てはまりを改善できることを示した(表1)。
3.実証分析2) 提案手法による「うねり」の抑制(スムージングモデル間比較)
提案手法から得られるFCは、価格高騰時に発生する「うねり」の課題を抑制しつつ(図5)、当てはまりを大幅に改善できることを示した(表2)。
今後の展開
欧州エネルギー取引所(EEX)日本電力先物市場のようなカスケーディングが採用された先物市場への適用や、30分粒度での精度評価、実務での利用に向けた表計算ロジックの作成、利用データの選定及び回帰式の精緻化、天気予報を用いた短期の精度向上等、モデルの更なる改善が挙げられる。