研究資料

2021.10

エネルギー事業を通じた地域活性化方策の課題と展望

  • エネルギー政策
  • 経済・社会

報告書番号:SE21501

概要

背 景

 温暖化対策としての再生可能エネルギー電源の増加に呼応して、分散型電源を活用したエネルギーの「地産地消」を進めることで地域の活性化を図ろうとする取り組みが増加した。このような取り組みにおいては、ドイツのシュタットベルケを参考とした「エネルギー事業の収益を地域に再投資することを通じて、地域の課題解決を図る」という事業モデルが想定されていることが多く、「地域循環共生圏」や「地方創生SDGs」等の、エネルギー事業を通じた地域活性化の試みを支援する施策も増加している。

目的

 エネルギーの地産地消が地域経済に貢献するための条件や、エネルギー事業を通じて地域の課題解決に取り組むことの意義について経済学的な視点から考察し、「エネルギー事業を通じた地域の活性化」の取り組みが向かうべき方向性を議論するための材料とする。また、このような取り組みの具体的な事例として、地域新電力の事業モデルが持つ特徴と課題を検討することによって、 エネルギー事業を通じた地域活性化方策の課題と展望を示す。

主な成果

1.エネルギーの地産地消による地域経済活性化効果の検証
エネルギーの地産地消に期待される地域経済活性化の効果は、①移入代替効果、②波及効果、③移出産業化効果、④地域エコシステム形成効果が考えられる(表1)。移入代替効果や波及効果において地域内の所得拡大の効果を高めるためには、域内産業からの調達率を高める必要があるが、域内産業からの調達がコスト上昇に繋がる場合には、地域経済に対しマイナス効果を持つことになるため、域内における所得の拡大とコスト上昇のバランスを取ることが重要である。

2.地域新電力にみるエネルギー事業を通じた地域活性化の取り組み
エネルギー事業を通じて地域活性化を図るという取り組みの具体的な形として、近年、電力の地産地消と地域課題解決を事業目的とする地域新電力の設立が増加している。しかし、現状では、地域新電力の多くは、地域の電源のみでは需要に見合う供給量を確保できておらず、外部調達への依存が高いことから、電力販売の価格面では差別化を図りにくい事業構造になっている。このため、地域新電力は、地域の課題解決を電力事業の付加価値として消費者に訴求している(図)。
地域新電力が掲げている地域課題解決事業は、環境政策との連携や、災害時のレジリエンス強化等のエネルギー事業と直接関連のある課題にとどまらず、人口減少対策やインフラ維持まで、対象とする分野は多岐にわたっている(表2)。しかし、現状では、これらの課題を解決するための事業が具体的な顧客サービスとして提供されている事例は、必ずしも多くはない。エネルギー事業と地域課題解決の組み合わせを持続可能な事業モデルとして確立することが、地域新電力の課題と言える。そのためには、地域課題解決事業が電力市場における顧客の獲得につながり、エネルギー事業を収益源として課題解決事業を実施するという両者の「好循環」を生み出すための仕組みづくりとともに、地域新電力が行う地域課題解決事業の具体的な内容や実行可能性を需要家に把握してもらうための仕組みづくりが必要となる。この実行可能性を示すためには、地域課題解決事業を電力事業と一体的に実施することによるメリットを示すことや、事業を通じて「地域エコシステム形成効果」(表1)等の地域の活性化に対する長期的な効果を訴求することも有効である。このような現状の地域新電力における課題と課題解決の方向性は、エネルギー事業と地域課題解決を一体的に実施する事業全般に通じるものと考えられる。

3.エネルギー事業を通じた地域活性化の展望
政府による「2050年カーボンニュートラル宣言」を受け、地域における脱炭素化の取り組みは、今後さらに加速することが予想される。その一方で、全国的な人口減少が見込まれる中での、インフラ費用の住民負担の上昇が地域共通の課題となっている。長期的な観点からエネルギー事業が地域の持続可能性や地域の活性化に寄与するためには、できるだけ地域経済への負担を抑えながら脱炭素化を進めるという視点はいっそう重要であり、分散型エネルギーシステム等の新しいインフラの導入も、地域における将来的なインフラの維持管理コストの低減につながる形で進められることが望ましい。

今後の展開

地域の活性化につながる地域全体のインフラの維持管理における事業者の協調方策について検討する。

キーワード

地域活性化、地産地消、再生可能エネルギー、自治体、地域新電力

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