要約
2020年11月3日の大統領選挙で当選を確実にした民主党のバイデン氏は、2050年に米国全体でネットゼロ排出を実現することを目指し、部門別の排出規制強化(たとえば電力部門の排出を2035年までにゼロとするクリーンエネルギー基準の導入)とインフラ・クリーンエネルギーへの投資(政権1期目の4年間で2兆ドル)という野心的な気候変動対策を公約した。バイデン次期政権は、「新規立法」および「既存法の下での規制等」という2つの手段を駆使して、これらの公約の実現を図ることになる。また、気候変動に関する外交についても、就任当日(2021年1月20日)のパリ協定復帰の通告に加えて、主要排出国に対する削減目標強化の働きかけや高炭素プロジェクトの輸出補助停止に関するG20合意を公約しており、新政権の発足直後から外交活動が活発化する見込みである。
本稿では、これらの公約が実現できるかを見極めるために、「新規立法」「既存法の下での規制等」「気候外交」の行方を考察した。「新規立法」については、2021年1月5日にジョージア州で行われる上院議員選挙の決選投票次第ではあるが、野心的な規制強化の新規立法は困難である一方、インフラ・クリーンエネルギー投資に関する公約を部分的に実現する立法は成立する可能性があることを、「既存法の下での規制等」については、新政権は実施しやすい分野については速やかに規制策定に着手する一方、大規模削減を可能とする規制を実現できるかは保守化した連邦最高裁の判断次第であることを示した。また、「気候外交」については、政権発足当初から動きが活発化するが、2021年11月のCOP26が近づくにつれて、パリ協定下で掲げる2030年目標の設定が難題として浮上する可能性が高いことを論じた。
このように、バイデン氏の野心的な公約が完全に実現する可能性は低いが、他方で、再エネ・電気自動車等の技術コストの低下やESG投資の拡大による金融面での後押しを考慮すれば、オバマ政権以上の取り組みを期待可能であり、米国の気候変動対策はトランプ政権期の停滞を脱し、大きく前進するものと見込まれる。