研究資料
2019.03
欧州における再エネ大量導入下の配電系統設備形成の動向と課題-分散型資源の柔軟性確保に向けた検討-
- エネルギー政策
- 再生可能エネルギー
概要
背景
欧州では、再生可能エネルギー(以下、再エネ)電源等を含む分散型資源の導入が進められてきた(図1)。その際、分散型資源事業者の収益のみが重視されてきたことにより、接続要請に対応するための配電設備投資費用が増加している(図2)。その一方で、経営の効率化を促すインセンティブ規制[1]の導入により費用削減が促されており、ネットワークのデススパイラル問題注1)[2]といった配電事業者の収支に関する懸念がある。そこで欧州の配電事業者は、分散型資源の柔軟性注2)を確保することにより、設備投資費用を抑制する可能性についての議論を進めている。特に、電源接続に関しては、出力制御を伴う電源接続[3]の実証試験等が実施されている。
目的
欧州の配電事業者において検討されている、出力制御を伴う電源接続の最新事例から課題と留意すべき点を示す。
主な成果
1. 独英仏における出力制御を伴う電源接続の特徴
ドイツ・イギリス・フランスの配電事業者が電源接続のオプションとして出力制御を伴う電源接続を検討している。3 国の取組にはそれぞれ特徴があり、配電事業者と分散型資源事業者の相対的なメリットを、2 つの評価軸で整理した(図3)。
① ドイツでは、再生可能エネルギー促進法(Erneuerbare Energien Gesetz)によるFeed-in-Tariff 制度により出力制御に対する金銭補償があり、分散型資源事業者の逸失利益が生じないため、同事業者にとっての導入障壁はない。一方、出力制御はオンオフ制御のため、出力制御量が過剰となる可能性があり、配電事業者にとって、適切な出力制御量とするための改善点は残る。
② イギリスでは、配電事業者は出力制御を連続変数的に遠隔制御できるため、利便性が高いが、出力制御に対する分散型資源事業者への金銭補償はなく、分散型資源事業者は自らの収入の変化が導入の鍵となる。
③ フランスでは、まだ実証試験の段階であるが、出力制御に対する分散型資源事業者への金銭補償はないため、分散型資源事業者の収入は出力制御量次第で変化する。また、出力制御の自動化アルゴリズムの構築が、配電事業者にとっての利便性に関する今後の課題である。
④ 3 国の検討における共通的な示唆として、設備投資費用と出力制御による逸失利益の適切なトレードオフの評価を行うことが、設備投資費用の増大や、過剰な抑制に陥らないために重要である。
⑤ 出力制御を伴う電源接続が増えてくると、出力制御量の割当方式次第で分散型資源事業者間の逸失利益に差ができ、不公平が生じうる。これに対し、3 国の中で最も早く出力制御を伴う電源接続の検討を開始したイギリスの配電事業者は、同じGSP 注3)に影響を与える複数の分散型資源事業者間の出力制御量配分に関して、不公平を解消する新たな手法として、競争入札による割当方式(図4)を検討している。しかしながら、設備投資を実施するまでの数年間の出力制御のために、競争入札による割当方式を導入するためのシステム費用が必要となることが課題である。
2. 独英仏における出力制御を伴う電源接続と系統利用料金との整合性
系統利用料金の電源課金がない場合でも、図4 の競争入札による割当方式が導入されると、分散型資源事業者は実質的に系統利用料金を支払うことになる。この場合、電源課金の系統利用料金を導入していない事由と、競争入札による系統利用料金の発生との間で、整合性を図ることが重要である。
容量比例で電源課金される系統利用料金の場合、複数の分散型資源事業者について系統利用可能な割当容量が同じであれば、これらの事業者が支払う系統利用料金は同じ金額となる。このことは、出力制御された場合でも同様であり、図4 に示すいずれの割当方式が導入されても、分散型資源事業者が支払う料金は、基本的には同じとなる。一方、これらの事業者が一年間を通じて要請される出力制御量は、接続箇所によって異なる可能性があり、その結果、逸失利益にも差異が生じうる。このような、系統利用料金が同額である一方で系統を利用可能な電力量が異なるといった、不整合への対応策を検討することが重要である。
今後の展開
欧州の配電事業者においても、出力制御を伴う電源接続は、議論が始まったところであり、今後もその動向を調査する。