研究資料
2020.05
国内製造業・サービス業の電力消費・生産・設備投資動向の特徴ー2019年度企業向けアンケート調査の全国単純集計結果ー
- 企業・消費者行動
- 経済・社会
概要
背 景
電力需要とマクロ経済の関係に従来とは変化が生じている我が国において、今後の電力消費量の動向を検討する上では、マクロ経済環境の変化だけでなく、電力消費に対する認識や考え方について把握することが有益である。当所ではこれまで製造業を対象としたアンケート調査を実施し、その考え方について把握を試みてきたが、サービス業における考え方についても同様の把握を試みる必要が生じている。
目的
電力消費とそれに関係する国内での生産・設備投資活動の増減などについてのアンケート調査を実施し、その結果を分析することを通じて、電力需要とマクロ経済の関係性の解明の一助とする。
主な成果
製造業・サービス業に属し、従業員規模50人以上の国内企業8,000 社(製造業:1,981社、サービス業:6,019社)を対象に、2019年10~12月にアンケート調査を実施し(回収率8.9%(製造業)、6.9%(サービス業))その結果より以下の知見を得た。
1. 電力消費の動向とその見通し
今後(3年程度)の電力消費量の見込みについては、製造業・サービス業ともに6割超の企業が「変化はない見込み」と回答したが、製造業では「増加する見込み」と回答した企業が2割強と「減少する見込み」と回答した企業のおよそ2 倍であった(図1)。増加を見込む理由として、生産量の増加(約7割)だけでなく、生産設備の増加(5割強)も挙げられた。生産量の中期的な増加を見込む企業が少なくないと考えられる。
2. 設備投資動向とその見通し
今後の設備投資の内容を尋ねたところ、既存設備の更新(7割弱)だけでなく、新規設備の導入(7割弱)と回答した企業も多かった(図2)。仮に、新規に導入される設備が、既存設備の平均的な電力消費原単位よりも省エネ型のものであった場合、既存設備の更新であれば、設備の入れ替えにより原単位が大幅に低下することになり、かつ、資本設備量にはそれほど変化がないため、両者の積である電力消費量は大幅な低下が見込まれる。しかし、本調査では新規設備の導入も回答が多く、これが実現すれば、既存設備に新規設備が加わるため、原単位の低下は限定的であるとともに、資本設備量は必ず増加することから、これらの積である電力消費量は前者ほど低下せず、増加する可能性がある。また、特にサービス業では、設備投資の目的として新規事業所の開設も多く挙げられた。企業活動の量的な拡大が計画されていることから電力需要の増加要因となり得る。
3. 生産動向とその見通し
製造業における現在の生産水準は、生産能力比で80~90%程度が最多であり、フル稼働の企業も1 割強程度存在する。また、今後の国内での増産を見込む理由として内需・外需の増加といった需要面が挙げられた一方、減産を見込む理由として、労働力確保の困難や原材料や人件費の上昇等が挙げられ、国内で生産活動を行う上での供給制約の顕在化を窺わせる。一方、サービス業における売上の増加を見込む理由として、新規事業への進出や業態転換との回答も多く挙げられ、既存事業だけでは売上の増加を見込めない可能性、あるいは新規事業においてより大きな売上の可能性を見込んでいることが示唆される。
4. 今後の活動を維持するうえでのリスク要因
リスク要因については、2016年に実施した企業アンケートでも製造業のみであるが、同様に調査を実施している。この2016年調査では、今後の生産活動を維持するうえでのリスク要因として、内需の減少を挙げる企業が最も多く5割弱であった(図3)。次いで、労働力の不足(3割超)や電気料金などのエネルギーコスト上昇(2割超)といった、生産活動に対して制約となり得る要因が挙げられた。一方、今回調査では、製造業において労働力の不足を挙げる企業が最も多く7割超に達し、内需の減少(5割超)を上回る結果となった(図4)。この点は前回調査とは大きく異なる点である。なお、サービス業においても7 割弱の企業が労働力の不足を挙げており、内需の減少(5割弱)を上回っている点は、製造業の結果と同様である。仮に、今後適切な政策対応が取られなければ、労働力不足が企業活動を制約するリスクとして顕在化する懸念がある。一方、労働力の確保などを目的とした政策的な対応により、将来的な国内の減産に歯止めをかけることができる可能性もあり得る。
今後の課題
調査対象や調査項目の工夫により回収率の維持向上を図りつつ、サンプルの代表性の確保にも努め、定期的な定点観測を行っていく。
キーワード
アンケート調査、製造業、サービス業、電力消費