社経研DP

2025.10

カーボン・クレジット市場におけるJ-クレジットの価格動向に関する分析

  • 気候変動

要約

 改正GX推進法の国会審議において、東京証券取引所が運営するカーボン・クレジット市場におけるJ-クレジットの価格が、排出量取引制度(GX-ETS)の上下限価格の参考指標の一つとして指摘された。J-クレジット(特に再エネ(電力)由来のクレジットと省エネ由来のクレジット)の価格は2024年4月以降、顕著に上昇しており、将来的にGX-ETSの価格形成に直接的な影響を及ぼす可能性がある。その背景を精査することは制度設計上も重要であることから、本研究では、2024年以降に観測された価格上昇の要因を分析する。

 一般的に、価格上昇には供給の減少、需要の増加、市場構造の影響といった要因が必要である。そこで、カーボン・クレジット市場の価格に影響する要因として、①政府売払いクレジットの落札者による売り控え、②マーケットメイカーの価格引き上げ行動、③2024年度の無効化需要の増加、④将来の価格上昇を見越した買いだめ需要の増加という4つの仮説を設定した。そのうえで、①、②および③について、データに基づいて定量的に分析しつつ、④については、データ制約から、定性的な情報に基づき、その可能性を考察した。

 分析と考察の結果、①政府保有クレジット落札者による売り控えの可能性は、再エネ(電力)由来のクレジットについては完全には否定されなかったが、あったとしても限定的であろうこと、②マーケットメイカーの取引行動が影響した可能性は、省エネ由来のクレジットについては示唆されたが、市場設計上の別要因による価格上昇である可能性も高いこと、③2024年度の無効化需要の影響はほぼないこと、④将来の買いだめ需要については、市場価格の上昇が開始した時期に買いだめを促進する制度的動向(たとえば、省エネ由来のクレジットについては、GX-ETSの骨格の制度設計)があったことが明らかになった。①~③の要因が決定的ではないことを踏まえると、④が2024年以降の価格上昇の主たる要因であると推測される。このように、カーボン・クレジット市場におけるJ-クレジットの価格形成は、単なる需給変化にとどまらず、制度的要因や市場参加者の期待・戦略的行動の影響を受けている可能性がある。

免責事項

本ディスカッションペーパーは広く意見やコメントを得るために公表するもので、意見にかかる部分は筆者のものであり、電力中央研究所または社会経済研究所の見解を示すものではない。

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