米国大統領選挙まで残り1年を切り、トランプ大統領に対抗する民主党の候補者を選ぶ予備選挙が来年2月に始まる。各種の世論調査によれば、穏健派のバイデン前副大統領が人気面で先行しているが、秋以降、リベラル派のウォーレン上院議員が追い上げている。
ウォーレン氏は選挙戦において、所得格差の是正に焦点をあて、富裕層や大企業に増税し、低中所得層に再分配するという構想を掲げている。そして、気候変動対策についても、格差是正という観点から計画・構想を提示している。
ウォーレン氏の気候変動に関する公約の中で最も注目されるのは、連邦政府が「10年間で3兆ドル」の巨額投資を行う構想である。
3兆ドルの内訳は「グリーン製造業」に1兆5千億ドル、R&Dを強化する「グリーンアポロ計画」に4千億ドル、海外支援を行う「グリーンマーシャルプラン」に1千億ドル、「クリーン再エネ電力、ゼロ排出車、グリーン建物への補助」に1兆ドルである。
一見すると、格差是正とは無関係に思われるが、詳しくみると、その観点が随所に埋め込まれている。
たとえば、グリーン製造業構想は、米国製のクリーンエネルギー製品を政府が大量調達する計画だが、政府と調達契約を結ぶ全企業に対し、時給15ドル以上の最低賃金や年12週間以上の家族・医療目的の有給休暇等を求めるとしている。
また、グリーンアポロ計画では、R&Dが盛んな東海岸と西海岸だけではなく、地方や失業率が高い地域にも資金を振り向ける。
グリーンマーシャルプランは、米国製品の海外輸出促進に加えて、気候変動の悪影響に脆弱な人々を取り巻く構造的な不平等の低減も狙いとする。
再エネ電力やゼロ排出車等への補助金は、トランプ政権が進めた富裕層や大企業への減税を撤回し、それを財源として消費者に補助するものであり、格差是正の狙いが鮮明である。
さらに、合計3兆ドルのうちの1兆ドルを、気候変動の悪影響を真っ先に受けるコミュニティや、汚染源となる工場等に隣接するコミュニティに優先的に配分すると宣言した。
ウォーレン氏の気候計画のもう1つの特徴は、化石燃料産業、特に石油会社に非常に厳しい態度をとっていることである。ワシントンDCは石油会社に好都合にできていると批判したうえで、ロビーイングを終わらせ、化石燃料補助金を全廃するとしている。
他方、化石燃料産業の労働者に対しては、グリーン経済への移行に伴う痛みを和らげるべく、手厚く支援すると表明し、早期退職給付や賃金保証といった財政支援に踏み込んだ。
格差是正が前面に出ており、環境目標はやや目立たないが、発電については、2035年までに全てをゼロ排出の再エネとし、中間目標として2030年までに全てをカーボンニュートラルにすると表明した。また、全ての新築建物と新車をそれぞれ、2028年と2030年までにゼロ排出にするとの目標を掲げる。
ウォーレン氏の計画は、若年層の運動を契機に注目を集めたグリーンニューディール構想に立脚し、民主党で勢いを増すリベラル派との相性は良い。他方、穏健派がどこまで支持できるかは未知数である。
電力中央研究所 社会経済研究所 上席研究員 上野 貴弘
電気新聞2019年11月26日掲載
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