社経研DP
2022.09.07
電気料金上昇が消費者に与える影響と料金設計における課題―2022年4月の消費者アンケートにもとづく調査・分析―
- 電気事業制度
- 企業・消費者行動
要約
わが国では、2021年から2022年現在にかけて、電気料金が上昇している。背景には燃料価格や再エネ賦課金の上昇の影響があり、特に燃料価格の影響が大きい。また、小売電気事業者にとっては、燃料価格や卸電力価格の上昇を電気料金に直ちに反映できないといったことから、収支の悪化を招き、小売電気事業の停止や撤退を余儀なくされることもあった。さらに、卸電力価格の変化を機動的に電気料金に反映する市場連動型料金を利用していた一部の消費者には、料金が急激に上昇するといった影響も生じている。このように、事業者と消費者の双方において、自由化された市場に起因する価格や料金の変動リスクも顕在化している。
本稿では、2022年4月に実施した消費者アンケート調査にもとづき、電気料金の上昇が消費者に及ぼす影響の実態を把握するとともに、電気料金に対する消費者の選好や認知などをふまえて、今後の料金設計における課題を整理・考察した。
料金上昇の影響に関しては、約5割の消費者が、電気料金の支払額が増加したと回答した。また、料金増加の理由として、主因である燃料価格の影響を挙げた回答者は少ないことなどが明らかとなった。さらに、料金上昇局面における消費者への影響や、その中での行動はさまざまであった。契約先変更や節電などにより料金抑制を図ろうとする人がいる一方、特に行動をとらない人も少なくない。
次に、料金の変動に注目し、変動料金と固定料金に対する消費者の選好を調査した。単価が変動しない固定料金を選好する割合が約6割、変動料金を選好する割合が約4割と、単価変動に対する消費者の選好は多様であった。ただし、変動料金・固定料金のいずれでも「どちらかといえば」好むという中間的な選好の割合が大きい傾向も見られた。また、全面自由化から約6年が経過したものの、電気料金等の仕組みに関する認知度(リテラシー)が低い消費者も存在しており、その認知度が低いほど、上記の中間的な選好の割合が大きい傾向にあった。こうした結果をふまえると、事業者が、卸電力価格等の変動を機動的に反映した料金変動リスクの高い料金プランなど、料金変動リスクの異なる多様な料金プランを提示したとしても、料金プランを選ぶ消費者側では、認知度の低い消費者が自らに合った料金プランを判断することは難しい可能性があるなど、料金変動リスクに向き合う準備ができていない状況が明らかとなった。こうした実情をふまえると、事業者にとっては、料金変動リスクに関する情報提供を工夫しつつ、消費者選好の詳細を的確に把握し、料金設計に反映していくことが課題となる。
今後、再生可能エネルギーや蓄電池、電気自動車などの普及に伴い、需給や市場リスクも変容しうる。効率的な資源配分のために、ダイナミック料金など新たな料金も候補となる。今後の研究においては、市場の変容に対して事業者も消費者も柔軟に対応できるよう、消費者の選好をふまえた料金設計や情報提供の実現に向けた検討が課題といえる。