社経研DP

2021.05.14

2030年温室効果ガス46%削減目標の達成は可能か?

  • エネルギー政策
  • 経済・社会

SERC Discussion Paper 21001

要約

 2030年度までに温室効果ガス排出量を2013年度比46%減とする新たな削減目標が示された。本資料では、当所研究成果を踏まえ、直近の政府審議会で示された長期エネルギー需給見通し(長期見通し)の見直し項目を基に46%減の実現可能性を検証した。
 現行の長期見通しでは、エネルギー起源CO2排出量は2013年度の12.35億t-CO2から、2030年度には9.27億t-CO2に削減するとしていた。これに対して、新型コロナによる経済影響等を考慮した電中研試算では2030年度の排出量を8.74億t-CO2と推計している。この推計結果から、今回の目標値の見直しで予想される増加要因として、経済成長の見直しによる排出増(0.64億t-CO2)を、政府審議会で示された見直しによる減少要因として、①粗鋼生産等の減少(0.45億t-CO2)、②「徹底した省エネ」の更なる深掘り(1.52億t- CO2)、③PVの更なる増加(0.15億t-CO2)をそれぞれ推計した。温室効果ガス46%減に相当する7.6億t-CO2の水準を実現するには、更に0.81億t-CO2の削減が必要となる。
 次に、政府審議会で更なる検討項目とされている省エネとPVについて検討したが、これらによる排出削減の実現可能性は低い。例えば、0.81億t-CO2の削減のために必要となるPV導入量を求めると、政策強化ケースとして本資料が試算した約119GWから、追加で約100GWが必要となる(2030年計約219GW、現行長期見通し64GWの3.4倍)。2021年度から導入を進めても、平均単年導入量は約15GWとなり、日本の過去最大の年間導入量の約1.5倍の規模を10年間継続することを意味する。施工能力等から考えても困難である。
 目標達成に向けて最善を尽くすことは重要だが、この目標を必達とするのではなく、莫大な費用を要する可能性がある追加対策は避け、費用対効果の優れた対策を順に実施する効率性の観点が肝要である。2030年目標とは、2050年ネットゼロ達成の長期目標に向けた道程であり、その際に最も重要な視点の一つは、一度導入されたエンドユース機器が長期間固定化されるロックイン問題の解決である。欧米諸国では、この問題を解決するために、エンドユース機器の低炭素化を促す政策を実施しており、日本でも検討すべきである。

Back to index

TOP