ICRP新勧告案(2006.6)の付属書類Aに対するコメント

全般的なコメント


BEIR VII、フランス科学アカデミー報告、CERRIEなどの新しい知見に適切な評価を与えたことを、評価する。特に4.4.1.2節に書かれているように、不確定性に着目して、BEIR VIIでのDDREF=1.5やCardisらの疫学調査結果のような、ばらつきの大きいデータを採用しなかったことを支持する。しかしながら、諸量の算定において不透明な部分が完全には改まっておらず、さらにブラックボックスを取り除くことを期待する。


個別コメント


  • 1. LNT仮説(しきい値なし直線仮説)に関する議論について、(p.5: 192-193; p.64-68: Chapter 4, 4.4.5)

    • Principal Conclusions(主要な結論)におけるLNTの記述(p.5: 192-193)のa scientifically plausible assumption; uncertainties on this judgement are recognized(科学的にもっともらしい仮説;この見解には不確かさの含まれることが認められる)
    • を、p.68と同じ表現のa prudent basis for the practical purposes of radiological protection(放射線防護の実際的な目的のための慎重な根拠)に置き換えるべき。
    • 理由:低線量・低線量率放射線のリスクが不確実性のゆえに厳密に評価できないので、放射線防護の目的のためにLNT仮説を適用することを明言していることは評価できる。ICRPが、LNT仮説を防護のための仮説であって実際の影響を反映するものではないと表明することは、一般公衆の放射線に関する不安感を取り除く上で非常に重要である。しかし、この意味で、LNT仮説の採用に関してscientifically plausible(科学的にもっともらしい)と表現することは、scientific(科学的)という単語ゆえに誤解を招きやすい。
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  • 2. ヒトのリスクを推定するに当たっての疫学的情報源について(4章、4.4項)
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    • 本報告書で疫学的情報源として広島・長崎のデータを第一に挙げ、ついで医療被曝・職業被曝および高レベル放射線環境被曝を挙げていることは評価できる。しかし、高自然放射線地域住民の健康影響調査についての取り上げ方が十分ではないように見受けられる。高自然放射線地域住民の調査は、男女両性を含み、全年齢層を含む、また、特殊なストレスがかかっていないという点ですぐれた情報源である。データの蓄積によって、職業被曝に匹敵するような検出感度を得るに至っており、他のカテゴリーと同様に考慮すべきデータであろう。自然放射線が世界平均の3倍程度の地域における全がん死亡リスクが対照地域に比べて高くないという報告もある(J. Radiat. Res., 41 Suppl., 31-41, 2000)。 
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  • 3. 組織荷重係数の算定について(4章、4.4項)
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    • 組織荷重係数の算定における透明性を増すべきである。
    • (1) Box 1にブラックボックスがある
      • たとえば、名目リスク係数の算定に用いた7集団について、その選択の理由と、個々の数値的なデータを示すべきである。
    • (2) 基礎としたデータに公表されていないものを用いている
      • ICRPは公表されたデータ以外を使うべきではない。今回の勧告案では原爆被爆者のLSSの最新のデータが用いられているが、これはまだ公表されていない。ICRPは公表を待って、改めて協議を行うべきである。
    • 理由:前のFD-C-1 (Committee 1 Foundation Document)以降においても名目リスク係数が頻繁に変更されている。ICRP勧告での評価の過程は、一般に追跡、検証、再現可能であるべきである。 
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  • 4. 編集上のコメント
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    • p.87 2715行の式(2)の間違いが修正されていない。式の両辺の次元は一致していなければいけない。分母のinduced mutation rate(誘発突然変異率)をinduced mutation rate per dose(線量当りの誘発突然変異率)とすべきである。
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