新勧告案に対する当センターのコメント

1.LNT仮説について

  • 新しい勧告においてICRPは低線量放射線からのがんリスクの推定のために線形しきい値なし(LNT)仮説を採用した。しかしながら近年、低線量/線量率の照射からのがんリスクはLNT仮説より予測されるより低いはずだと示唆する多くの科学的データが蓄積されている。一方、リスク評価に関連する不確実性により、しきい値が存在するか否かが証明できないこともまた真実である。このような状況の下でICRPが放射線影響に関して現実的アプローチをとっていることは評価できる。
  • 一般公衆はLNT仮説が放射線はどんなに線量が低くとも有害であることを証明していると信じる傾向にある。一般公衆の間の放射線についての恐れは放射線の便益のための利用を妨げている。それゆえ低線量の被ばくの影響に言及する時には特に注意深くする必要がある。具体的には、パラグラフS6の「(少量の増加においてさえも)」、パラグラフ38の「いかなる…も」、パラグラフ101の「科学的に」は削除されるべきである。
  • 4.2節(がんと遺伝影響の導入)の後に新しい節「4.3 リスク推定の基本概念」を設け、そこでLNT仮説とその利用をより詳しく説明することを提案する。
    • 自然放射線による年間の被ばく線量の世界平均は2.4mSvと推定され、その平均値の10倍以上の地域もあるという事実から判断されるように、数十mSvの被ばくは健康への有意な影響はない。低線量レベルでの厳格な放射線のコントロールは単に放射線防護の有効性をモニタするために必要とされるのであり、低線量レベルが作業者や公衆に何らかの危険を及ぼすためではない。
    • ICRPはLNT仮説を実務的な理由で採用する。それは単純で、利用が容易であり、科学的仮定に比較的よく合致し、我々が線量を足し合わせることを許容する。
    • ICRPは、LNT仮説を用いてリスクは推定されるが、数mSvの被ばくによる健康影響は検出されないことを認識する。
    • LNT仮説は、放射線防護の目的のために定義されたものであるので、特定の個人の被ばくをさかのぼって確率的影響のリスク評価に用いるべきではない。また、人の被ばくの疫学的評価に使用すべきではない。

2.線量拘束値について

  • 線量拘束値は、複数の線源に接する可能性のある個人の被ばくが線量限度を超えないように、個々の線源に関して設定される値である。被ばく線量をモニターしている「作業者」に適用する必要はない。

3.除外について

  • 0.01mSvに関連する記載を、表S1(推奨される最大線量拘束値)および表7(推奨される最大線量拘束値)から削除する。(理由:表S1.および表7.は、最大拘束値を示す表であり、最小拘束値を同じ表に示すことは適当ではないため)
  • 勧告の適用範囲の除外レベルとして勧告している放射能濃度レベルを削除する。(理由:人工的なα放出体に対する除外レベルとして勧告している0.01Bq/gは、IAEA RS-G-1.7に示された0.1Bq/gとの間で1桁の乖離があり、国際的な議論が尽くされていない。また、本来、このような除外レベルは、線量規準として与えるべきものであり、人工放射性核種と自然放射性物質に対して異なる線量規準を採用することの非合理性についても今後十分な議論が必要であるため。)

4.線量率効果/DDREFについて

  • 生体防御機能の存在は、線量率効果をもたらす。高い線量率で短期間に大きな線量が与えられた場合には「処理能力」を越えた分が障害となって現れるが、同じ線量でも長期間にわたって与えられる場合には、各時点で「処理能力」が発揮されるために、現れる障害は高線量率の場合よりも小さいと考えられるからである。
  • ICRPの勧告の中で線量率効果は「線量線量率効果係数(DDREF:Dose and Dose Rate Effectiveness Factor)を導入することにより配慮されている。Publication60のパラグラフ(74)に次の記述がある。「この係数(線量・線量率効果係数)は、0.2Gy以下の吸収線量、および線量率が1時間あたり0.1Gy以下の場合のもっと高い吸収線量によるすべての等価線量についての確率係数の中に含められた。」実際の値としては2が与えられている。
  • 近年0.1Gy/hrよりも低い線量率における生物効果に関するデータが蓄積しつつあり、DDREFを適用する線量および線量率範囲と、2という値についてその妥当性を検討すべき状況にある。また、将来的には線量と線量率の二つのパラメータからなる防護体系が構築されるべきである。