電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)
報告書データベース 詳細情報
報告書番号
Y15003
タイトル(和文)
欧州における電力・燃料トレーディングと市場リスク管理の実践事例 -トレーディング機能の強化に向けた課題と対応策-
タイトル(英文)
Practices of Power and Fuel Trading and Market Risk Management in Europe - Challenges to Strengthen the Trading Function -
概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)
本報告では、電力自由化で先行する欧州において、ドイツやフランスの電気事業者へのヒアリング調査に基づき、事業者がトレーディング機能を強化する際の課題と対応を明らかにすべく、特に発電と小売の戦略の違いや、発電のトレーディング戦略を実行するための組織の役割分担、さらには、リスク管理体制について紹介した。
まず、事業者の基本的なトレーディング戦略は、自由化の進展状況により変わっていく可能性がある。フランスのように規制料金が残る小売市場を抱え、安価な電源を所有する場合は、発電部門と小売部門の内部取引を中心とすることも考えられるが、ドイツのように市場競争が進むと、発電と販売が独立して収益の最大化を目指すことも考えられる。その場合には、発電は保有する電源からの収益を最大化するため、電源特性の違いによる価値の源泉を見極めて、それぞれに適したトレーディング手法を用いる必要がある。一方で、販売は顧客需要に応じたリスクへの対応が重要となる。特に大口顧客を獲得する場合、契約と同時にほぼ全量をヘッジする必要もあるが、取引できる先物商品に流動性の制約があるため、顧客需要と先物取引の乖離によるリスクを把握し、顧客に求めるリスクプレミアムを適切に評価することが求められる。
また、特に発電のトレーディングで収益の最大化を図るには、電力や燃料の日々の価格変動に対して、適切なタイミングで取引を執行するとともに、取引に応じて電源やストレージ等のアセットを最適なかたちで運用する必要がある。しかし、こうした一連のプロセスの実行は複雑で、それぞれに専門の人材が必要となることから、欧州では、最適化部署とトレーディング部署の分業で対応することがある。その場合、最適化部署が電源ポートフォリオごとに、多様な先物商品に対してそれぞれ投入可能な価格と量の情報提供を行い、トレーディング部署が市場取引に専念するという役割分担がなされている。
さらに、トレーディングの強化にあたっては、金融機関と同様のリスク管理体制を整える必要がある。欧州の事例でも、トレーダーは無制限に取引を行えるわけではなく、取引を行うための資本であるリスク・キャピタルと、強制的に取引を終了させる年間損失限度額であるロス・リミットといった制約の中で取引を行っている。そのリスク・キャピタルは、経営層が自己資本を原資として全体の許容量を決め、各部署のリスクと収益を勘案して配賦する。また、トレーダーの日々の実現損益、および、保有ポジションの将来の損失可能性額は、部署ごとに合算されて経営層に報告されるが、電力や燃料など相関の高い商品の場合には、その相関を適切に評価することがリスク管理上重要である。
概要 (英文)
This report investigates electricity trading activities and risk management in practice, especially in reference to the cases of German and French power companies. We then discuss the issues in strengthening the function of electricity trading as the electricity market develops. The following results were obtained.
1. To stabilize sales profits and to earn additional profits, power generation companies need to take different trading strategies according to the sources of value of different power plant types. On the other hand, retail electricity companies need to manage the risk associated with demand fluctuations of their customers with a limited set of futures products.
2. In order to improve the performance of power generation, operation of the assets need to be optimized in response to the result of trading. However, as asset optimization and trading require diverse skills and expertise, coordination of these activities is a complicated task. In the case we studied, there are divisions of roles for optimization and trading; the optimization division provides information of the possible bidding quantity against the market price for each power portfolio, while the trading division decides the trading timing and quantity based on the market price and the trader's market view.
3. Traders take risks within a given risk capital and loss limit constraints. Risk capital is determined by the company as a whole, and is allocated to departments, divisions and individual traders according to their risk/return profiles. While daily profit/loss and VaR are sequentially reported to upper managers, it is important to take into account the liquidity constraint and correlation of different energy products.
報告書年度
2015
発行年月
2015/10
報告者
担当 | 氏名 | 所属 |
---|---|---|
主 |
遠藤 操 |
社会経済研究所 事業制度・経済分析領域 |
共 |
服部 徹 |
社会経済研究所 事業制度・経済分析領域 |
キーワード
和文 | 英文 |
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電力先物 | Electricity futures |
市場リスク管理 | Market risk management |
トレーディング戦略 | Trading strategy |
発電会社 | Power generation companies |
販売会社 | Retail electricity companies |