電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)
報告書データベース 詳細情報
報告書番号
Y12016
タイトル(和文)
熟議による社会的意思決定プロセスの課題-エネルギー・環境問題に関する2つの討論型世論調査からの示唆-
タイトル(英文)
Lessons Learned from Two Deleberative Pollings on Energy and Environmental Issues in Japan in 2012 towards Future Social Decision Making Proccesses
概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)
2012年9月に民主党政権下で決定された「革新的エネルギー・環境戦略」の策定過程において,政策立案への「国民参加」を企図した「討論型世論調査(DP; Deliberative Polling,以下,政府DP)」が実施され,その結果が社会の注目を集めた。また,同時期に政府の関与がない民間ベースでも同様のDPが実施された(以下,民間DP)。政府DPと民間DPがそれぞれどのように行われたのかの事実関係を整理し,今後の社会的意思決定プロセスに熟議型手法を適用する際の留意点について知見を得る。両DPとも,まずシナリオ選好などの世論調査(T1)を実施し,その中から代表性のあるサンプルを抽出して討論フォーラムへの参加を要請した。参加者には事前に討論資料が送付され,討論フォーラムでは小グループに分かれての参加者同士の討論と専門家との対話が2回繰り返された。なお調査は,討論フォーラムの開始時(T2)と終了時(T3)の計3回にわたって行われた。両DPで参加者の知識量やシナリオ選択への確信度の増加等の変化がみられ,どの時点においても判断基準として「安全性」に対する重視度が最も高かった。原子力発電ゼロシナリオ支持者の割合は,政府DP(32.6→41.1→46.7%)で増加し,民間DP(49.1→49.1→54.4%)であまり変化がみられなかった(表2)。この違いは,政府DPは政治日程に組み込まれ,厳しい時間制約やシナリオありきの資料や質問紙設計になりがちであり,討論資料作成から討論フォーラムまでの一貫性した専門家の関与が少なかった一方で,民間DPはスタンフォード大学の監修を受けない等の設計上の自由度があり,シナリオを軸としながらもより広い論点の検討が可能であったことに起因すると考えられる。両DPから,結果を政策へ反映する距離感の重要性や,準備と実施に係る十分な日程確保も前提条件として組み入れる必要性が示唆される。エネルギー・環境政策は何らかの熟議型手法の題材として不適切とはいえないものの,国論を二分しているタイミングでの実施は,参加者が「適度な距離感」を持って「当事者意識」を感じられなかった可能性がある。また,エネルギー供給シナリオは政策目標であって,それを実現するための政策パッケージが揃えられた上で需要家としてどのように関与するかというアジェンダ設定の方が,一般市民の有意な参加が期待できたのではないかと考えられる。今後の熟議型手法の適用には,シナリオ作成など高度に専門知が必要とされる段階では,共同事実確認等の方法により専門家とステークホルダー間で十分な合意を経て,次の段階で,「適度な距離感」を持って「当事者意識」を感じられるアジェンダ設定とタイミングにおいて,代表性を担保された市民が関与する等の方法があり得る。
概要 (英文)
A deleberative polling was conducted during the formulating process of "Innovative Strategy for Energy and the Environment" by the Japanse Government in the summer of 2012. In parrarel, similar deleberative polling was conducted by a private entity with almost the same member of secretariat. This report derives lessonss for future social decision making proccesses by comparing these two cases through literature surveys. The main results are as follows. Firstly, the common tendency observed in the both cases is that an increase of participants' knowledge, conviction and putting high priority on energy security consistently. Secondly, the differences between the two cases are identified, such as legitimacy and degree of freedom on procedure resulting from acquisition of trademark; time pressure by being incorporated in political calendar, and consistent degree of involvement of the experts committee. Consequently, preference of energy scenario shifted with time series at governmental DP but unchaned at privat DP. For the future, we should spend enough time for preparation and implementation avoiding to be influenced by politics and for sufficient provision of agenda setting such as demand side scenario rather than supply side scenario so that the general public can participate more meaningfully with an appropriate sense of ownership in such deliberative process.
報告書年度
2012
発行年月
2013/04
報告者
担当 | 氏名 | 所属 |
---|---|---|
主 |
馬場 健司 |
社会経済研究所 経済・社会システム領域 |
共 |
小杉 素子 |
社会経済研究所 電気事業経営領域 |
キーワード
和文 | 英文 |
---|---|
専門家 | Experts |
市民参加 | Public Participation |
ステークホルダー | Stakeholder |
アジェンダ設定 | Agenda Setting |
共同事実確認 | Joint Fact-finding |