電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)
報告書データベース 詳細情報
報告書番号
Y09029
タイトル(和文)
エネルギー需要の長期価格弾力性-政策分析に用いる場合の留意点-
タイトル(英文)
Long-term Price Elasticity of Energy Demand -What should we keep in mind when applying it to policy analyses?-
概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)
1975年以降に発表された、国内外の各種エネルギー需要の長期価格弾力性に関する実証研究の文献レビューから、「長期」はどのように定義され、長期価格弾力性はどのように推計されてきたのか、温暖化防止政策など、政策の影響分析に用いる場合にはどのような点に留意すべきかについて整理する。主な成果は以下のとおりである。
1.「長期」は、どのように定義されてきたのか
「長期」の定義は、推計を行う分析者の判断に依存し、多様である。設備更新などの長期的行動を記述できるモデルであるか否か、利用するデータが横断面(クロスセクション)データであるか否か、などで「長期」と「短期」が区別されてきた。さらに、前提とする経済についても、各主体による設備調整を含めた最適化が完了した動学的均衡状態とするか、その調整過程にあるとするか、は分析者によって異なる。
2.どのような方法で推計されてきたのか
「長期価格弾力性」の推計方法についてのコンセンサスはなく、推計方法やデータタイプは時代とともに変化しており、主に以下の3つの方法、1)ラグ構造モデル、2)共和分モデル、3)クロスセクションデータを用いるモデル、で推計されてきた。1970年代はラグ構造モデルによる推計が中心であったが、1980年代以降は時系列分析が隆盛になり共和分モデルによる推計が主流となった。その後、時系列モデルの過度の適用への反省や個票データの整備が進んだことなどから、クロスセクションモデルによる推計も増加している。
3.長期価格弾力性を用いる場合には、どのような点に留意すべきであるか。
(1)長期の定義は様々であり、安易にその平均値を用いるべきではない
長期の定義は様々であり、本来、それぞれの分析目的に適った長期の定義で推計された長期価格弾力性を用いるべきである。しかし、「長期」の定義が、長期価格弾力性を推計する分析者の判断に依存する現状では、その定義すら判然としない場合も多い。少なくとも、「長期価格弾力性は、各モデルにおいて定義されるモデル固有の値である。」と理解した上で用いるべきである。従って、長期価格弾力性のコンセンサス値として、異なる性質を持つモデル群から得られた複数の推計値の平均を用いることは適切ではない。
(2)モデルやデータの選択で結果に偏りが生じることに留意すべき
同じ長期の定義の下であっても、モデルや、データの選択によって、推計値には、経験的に一定の偏りが生じる。すなわち、長期価格弾力性の推計結果には、時系列モデルよりも、ラグ構造モデルのほうが、タイムトレンドを考慮するよりしないほうが、時系列データよりも、クロスセクションデータのほうが、価格下降期よりも、上昇期のほうが、大きめに推計される偏りがある。従って、長期価格弾力性を政策分析に用いる場合には、それがどのような偏りを持つ可能性があるかに留意すべきである。
概要 (英文)
This report aims at providing an overview concerning the long-term price elasticity of energy demand, which is utilized to understand the long-term influence of price changes caused by policy changes, market conditions and so on. We reviewed papers analyzing the elasticity published since 1975. Our findings are as follows.
1. The definitions of "long-term" vary significantly among the authors. Some definitions assume a dynamic equilibrium while the others do not.
2. The estimation methods have been changing with times. The ways to estimate the long-term price elasticity of energy demand have shifted from "Lag Structure Model" to "Co-integration Model" then to "Cross-Section Model".
3. We found specific tendencies in the estimation results which occur depending on the employed estimation model and data type. For example, Co-integration models tend to estimate lower elasticity than Lag structure models, Cross-section data models tend to estimate higher elasticity than time series data models. Also values estimated from data of price increasing period tend to be higher than that from data of price decreasing period.
4. When we use long-term price elasticity value for policy analyses, we should choose the value estimated under the definition of "long-term" which well suits with the analysis and as less biased one as possible.
報告書年度
2009
発行年月
2010/05
報告者
担当 | 氏名 | 所属 |
---|---|---|
主 |
星野 優子 |
社会経済研究所 エネルギー技術政策領域 |
キーワード
和文 | 英文 |
---|---|
長期価格弾力性 | Long-term Price Elasticity |
エネルギー需要 | Energy Demand |
エネルギー価格 | Energy Price |
エネルギーモデル | Energy Model |
地球温暖化 | Global Warming |