電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)
報告書データベース 詳細情報
報告書番号
Y08008
タイトル(和文)
IPCC第4次評価報告書の低排出シナリオについての分析
タイトル(英文)
An Analysis of Low Emission Scenarios in the IPCC Forth Assessment Report
概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)
2007年のCOP13以降、欧州および途上国の一部は、「世界の温室効果ガス排出を2010年から2020年の間にピークアウトし、2050年までに半減すべきである」、「先進国の排出量削減の数値目標については、2020年に25~40%削減とすべきであるv、と主張してォた。日本でも、福田元首相は、「2050年までに世界の排出を半減する」という目標を掲げた。これらの数値の根拠とされたのが、IPCC第4次評価報告書第3作業部会報告書(以下IPCC報告書)の第3章「カテゴリーⅠ」(表1)および第13章「カテゴリーA」(表2)のシナリオである。これらのシナリオは、その具体的な内容については殆ど知られることが無いまま、大きな政治的影響を与えてきた。本稿では、これらシナリオの具体的な内容を分析し、これらを排出削減の目標とすることには、下記のような問題点があることを明らかにした。
「カテゴリーⅠシナリオ」の分析
(1)シナリオの研究例は少なく、該当するシナリオは177本のうちの6本と少ない。この6本は、技術進歩の内生化を試みたモデル研究の特集号と、あるひとつの系統のモデルを用いた研究を出典とするシナリオから構成されている。
(2)6本のシナリオのうち、対策オプションごとの削減量が示されているものは3本では、は技術の中身はブラックボックスとなっている。
(3)これらカテゴリーⅠのシナリオは、バイオマスエネルギーを今日の石油なみの規模で利用し、火力発電の大半にCCSを適用するといったように、大規模な排出削減技術について極めて楽観的な想定に立っている。しかし、それらの想定についての経済的・社会的な実施可能性の分析はなされていない。
2.「カテゴリーAシナリオ」の分析
IPCCでは、さらに、大気中温室効果ガス濃度を安定化するシナリオのうちで、先進国と途上国の排出経路を分けて分析した研究をレビューし、濃度安定化の水準に応じて3つのカテゴリーに分けた。カテゴリーAとは、そのうち最も低い安定化水準のシナリオ群を指している。
(1)該当するシナリオの研究例は9件と少ない。このうちの6本は、オランダのRIVMおよびECOFYSの研究である。
(2)先進国の排出削減目標の幅(2020年に1990年比で-25%~-40%)は、原典から得られる幅(-15%~-50%)より狭いが、その根拠は不明である。
(3)先進国および途上国の排出量割当てについて試算されているものの、その大半が「一人当たり排出量を将来的に等しくする」という前提を措いた上で計算されたものである。このように、この試算にはすでに特定の規範が入り込んでいる。また、この前提は、政治的に実現されうる選択肢のごく一部に過ぎない。
概要 (英文)
European countries and a part of developing countries emphasized in COP 13 that global greenhouse gas (GHG) emissions should peak out in a period between 2010 and 2020 and be halved by 2050, referring to "Stabilization Category I" and "Category A", the lowest emission categories in the scenarios presented in Working Group III Report of IPCC AR4. We analyzed those scenarios and found several problems when referred in the context of political issues of CO2 emission reduction:
(1) Category I
Category I has been proposed for discussing the possibilities of low emission pathways. Only six scenarios are included in Category I out of 177 scenarios reviewed in the AR4. In the category, at least three scenarios are very optimistic about the large-scale introduction of biomass and CCS despite their insufficient discussions on technical, economical and political feasibility.
(2) Category A
Category A has been proposed for discussing how to allocate emission reduction among nations. As for the mitigation scenarios for the Category A, we can find the same problems of profiling the low emission scenario mentioned above. The mitigation range of Annex I proposed in the AR4/WG3/Box13.7. is reduced from the range derived from the original papers. Most of the allocations are calculated under the assumption that the per capita emission among the nations will converge in the future. However any single allocation method has not been internationally agreed.
報告書年度
2008
発行年月
2009/04
報告者
担当 | 氏名 | 所属 |
---|---|---|
主 |
星野 優子 |
社会経済研究所 エネルギー技術政策領域 |
共 |
杉山 大志 |
社会経済研究所 エネルギー技術政策領域 |
共 |
上野 貴弘 |
社会経済研究所 エネルギー技術政策領域 |
キーワード
和文 | 英文 |
---|---|
地球温暖化 | Climate Change |
IPCC | IPCC |
排出削減目標 | Emission Reduction Target |
低排出シナリオ | Low Emission Scenario |
第4次評価報告書 | AR4 |