電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)
報告書データベース 詳細情報
報告書番号
Y07023
タイトル(和文)
エネルギー事業者のM&A前後のパフォーマンス評価
タイトル(英文)
Evaluation of pre- and post- M&A performance of Energy Companies
概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)
本稿では、近年のエネルギー事業者のM&Aブームに着目し、M&A前後の事業者のパフォーマンス変化を、効率性指標を用いて計測するとともに、M&Aに対する市場からの評価を株価の変化率を用いて検証する。特に年代による違いや、案件の地域や事業種といった属性毎の特徴に着目し、その背景にある近年加速するエネルギー関連事業への集中戦略や、主に米国で見られるような国内回帰戦略の評価に関わる仮説の検証を試みる。
分析は、全世界におけるM&A完了案件のうち、買収者もしくは売却者がエネルギー事業者で、買収価格が30億ドル以上の比較的大きな案件を分析の対象とする。データが取得可能な上場企業69社について、1997年~2000年をI期(活性期)、2001年~2003年をII期(停滞期)、2004年~2006年をIII期(活性期)に分け、買収者・売却者双方に対し、M&A前後の効率値と株価の変化率、及びM&Aに関わらなかった事業者を基準とする水準比較を行った。なお効率値は、ROA、ROE、労働効率性、費用効率性を総合的に捉える効率性指標をデータ包絡分析法によって計測した。その結果、次の点が明らかになった。
1) I期においては、資本市場は事業規模拡大に基づく成長重視の評価をしていたと考えられ、買収者の株価が上昇しているのに対し、売却者は株価を下落させている。当期はM&Aが盛んに行われていたが、効率値は買収者については悪化し、売却者については上昇するものの基準事業者の水準と同程度にとどまる。これらのことから、M&Aは効率性改善には大きく貢献していなかったと考えられる。
2) M&Aの買収額・件数の停滞期であるII期は、買収者・売却者ともに株価は下落している。一方、効率性は買収者・売却者ともに上昇しており、停滞期におけるM&A案件の選定には、より慎重な調査と判断が要求され、結果として効率性パフォーマンスを向上させる優良なM&A案件が実施されたと考えられる。
3) III期は、I期と同様の活性期にあたるが、資本市場の評価は事業規模拡大に基づく成長重視から、事業の売買を通じた事業の最適化重視に推移しており、買収者・売却者ともに効率性を改善することが、同時に株価の上昇にも繋がっていると推察される。I・II期では効率性改善と株価の変動が一致していなかったことと比較して、III期は効率化を図ることが市場の評価にも結びついており、事業の効率化のモチベーションも高まると考えられる。
4) 全期間通じて、労働効率性の向上が全体的な総合効率性の上昇に大きく寄与していることが特徴として挙げられる。総合効率性が上昇していない買収案件においても、労働効率性の向上が計測されており、M&Aを通して労働人員のより最適な配分が実現していることが推察される。
5) 属性別の特徴に着目すると、買収より売却案件の方が、中でも国外より国内案件の方が、全期間を通じてM&A前後で効率性の上昇が見られる。遠隔地である国外よりも、国内における案件の方が、労働の配置、資産運用等の面からシナジーが働きやすいことに起因すると考えられる。
6) 国外事業の売却案件については効率性水準が低く、特に近年においては国外からの撤退が市場においても高く評価されている。国外事業の売却によって、わずかではあるが効率値も上昇しており、国内回帰戦略の有効性を示唆する結果と言えよう。
概要 (英文)
Although M&A activities by energy companies in the world once calmed down after peaking in 2000, it flared up again after 2004, e.g. E.ON competed with ENEL and Acciona for acquiring Endesa; Gaz de France proposed merger with Suez which was a target for a takeover by ENEL; and so forth. These activities are mainly based on their management strategy, e.g. "back to basics" such as concentration on energy businesses. This study attempts to evaluate these M&A activities in order to clarify their characteristics by focusing on change of management efficiency and stock prices between before and after M&A completion. The main findings are as follows:
1) In the recent boom period of M&A (2004-2006), management efficiency of acquires and divestors improved, especially the latter achieved more. In this period, the capital market valued optimization of businesses through M&A instead of focusing on business expansion as previously valued, and resulting in rising stock prices of both acquires and divestors.
2) Divestors of domestic M&A improved management efficiency more than others, possibly because it will be easier for them to optimize capital and labor allocation for their activities than in the cases across borders. In fact, improvement of labor efficiency contributed much to improvement of management efficiency of them.
3) In 2004-2006, management efficiency for divestors of foreign businesses was lower than the others. Divesture of these businesses was valued in the market and management efficiency was also improved slightly after divesture.
報告書年度
2007
発行年月
2008/04
報告者
担当 | 氏名 | 所属 |
---|---|---|
主 |
筒井 美樹 |
社会経済研究所 事業経営・電力政策領域 |
キーワード
和文 | 英文 |
---|---|
エネルギー事業者 | Energy company |
合併買収 | Merger and acquisition |
経営効率性 | Management efficiency |
株価 | Stock price |
データ包絡分析法 | Data envelopment analysis |