電力中央研究所

報告書「電力中央研究所報告」は当研究所の研究成果を取りまとめた刊行物として、昭和28年より発行されております。 一部の報告書はPDF形式で全文をダウンロードすることができます。

※ PDFのファイルサイズが大きい場合には、ダウンロードに時間がかかる場合がございます。 ダウンロードは1回のクリックで開始しますので、ダウンロードが完了するまで、複数回のクリックはなさらないようご注意願います。

電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)

報告書データベース 詳細情報

一部記載内容を修正しました。
2020/7/31までに報告書全文をダウンロードされた方は、正誤表より改訂の理由とポイントをご確認ください。
お手数をおかけいたしますが、改めて改訂版をダウンロードいただき、ご利用くださいますようお願い申し上げます。

報告書番号

Y19004

タイトル(和文)

EUの政策における気候変動対策の主流化 -欧州グリーン・ディールに至る政策的潮流の分析-

タイトル(英文)

Mainstreaming climate action in EU policies - Analysis of a policy trend toward the European Green Deal -

概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)

【背景】
環境保護は、欧州連合(EU)の目的のひとつである。1990 年代以降、EU は、排出量取引制度(EU-ETS)の創設をはじめとして、気候変動対策を継続的に展開することで、世界を先導するとの姿勢を保ち続けている。
2019 年12 月に発足したフォンデアライエン委員会は、「欧州グリーン・ディール(European Green Deal)」と呼ばれる包括的な気候変動対策を最優先課題の1 つとしているが、その中には、財政や金融、外交や通商など、従来は気候変動対策とみなされてこなかった政策手段が含まれている。この背景には、2010 年代に始まり、パリ協定採択以降に強まってきた、気候変 動対策の主流化(mainstreaming)と称する政策的潮流がある。

【目 的】
EU における気候変動対策の主流化という政策的潮流は、従来想定されていなかった政策領域においても気候変動対策に取り組むことを意味し、EU 域外にも影響が波及し得ることから、その実態を明らかにする。

【主な成果】
1. EU における財政及び金融と気候変動
EU における気候変動対策の主流化は、EU の予算に端緒を見出せる。2014 年~2020 年の多年次財政枠組み(MFF2014-2020)の策定過程では、気候主流化(climate mainstreaming)という概念が初めて提示され、EU 諸機関による政治的なコミットメントとなった。MFF2014-2020 では、気候変動対策に関連する予算比率を20%とする目標が設定され、この目標は概ね達成される見込みである(図1)。次期MFF2021-2027 においては、目標を25%に引き上げることが提案されており、また、従来の気候変動対策には含まれてこなかった、対策の実施に伴う影響を抑えるための「公正な移行基金」も創設される見込みである。
金融分野では、サステナブルな経済活動への投資の促進を目的とした、サステナブルファイナンスに関する取組が進展している。特に注目されるのは、経済活動がサステナブルであるかどうかを判断する基準(EU タクソノミー)の確立である(図2)。2019 年12 月に合意が成立したEU規則では、気候変動を含む6 つの環境目的のうち1 つ以上に貢献することや、他の環境目的を著しく阻害しないこと(do no significant harm, DNSH)などが定められた。帰結が最も注目されたのは気候変動対策に貢献する経済活動に関する要件だが、パリ協定の長期目標との整合性が求められ、石炭は明示的に除外された。
2. 欧州グリーン・ディールと気候変動対策の主流化
2019 年12 月に欧州委員会が提示した欧州グリーン・ディール(European Green Deal)は、包括的な気候変動対策のパッケージであり、従来は気候変動対策とみなされてこなかった政策手段も含まれる。特徴的なのが「全てのEU政策におけるサステナビリティの主流化(Mainstreaming sustainability in all EU policies)」と題するカテゴリーである。これは、EUの財政における気候主流化を敷衍した考え方であり、その要素にはサステナブルファイナンスや「公正な移行基金」も含まれる。
3. EU において、気候変動対策の主流化は浸透しているのか?長期的に継続するのか?
欧州議会は既に欧州グリーン・ディールに対する支持を表明している。欧州理事会も、2019 年6 月に採択した「戦略課題」の中で、社会政策などと合わせた形で気候変動対策を位置付けている。従って、気候変動対策の主流化という大きな方向性は、欧州議会やEU 加盟国の間で共有されていると言える。長期的にも、2019 年12 月に欧州理事会が合意した、2050 年の気候中立(climate neutrality)目標に向けて取り組むのであれば、あらゆる政策に気候変動対策の要素が入ってこざるを得ない。
ただし、主流化という大きな方向性があったとしても、各論では様々な利害や思惑の対立があり、その態様は、政策領域ごとに異なることから、多面的な分析が必要である。

【今後の展開】
EU における気候変動対策の主流化について、財政や金融以外の政策領域での分析を行う。また、EU以外の諸外国において、同様の潮流が生じうるかについても検討する。

概要 (英文)

Protection of the environment, including climate action, is one of the objectives of the European Union. EU has been exercising leadership in addressing climate change with continued policies since 1990s. Recently, climate action extended to EU policies other than climate change mitigation and adaptation. EU claimed it mainstreaming of climate action. The concept of mainstreaming was originally proposed in the context of EU budget, namely its Multiannual Financial Framework (MFF).
Current MFF2014-2020 aimed at allocating at least 20% of the budget to climate related activities and the target is within the reach. EU is also developing a system for sustainable finance and reached an agreement on regulation on taxonomy, a classification system of economic activities which can be considered 'sustainable'. European Green Deal, proposed by new European Commission under Urusla Von der Leyen, is also in line with this policy trend. It contains a category of policy measures entitled "mainstreaming sustainability in all EU policies" and budget and sustainable finance fall into this category.
Accompanied Sustainable Europe Investment Plan, or European Green Deal Investment Plan, includes a proposal to establish a Just Transition Fund to support the territories most affected by the transition towards climate neutrality, which is also beyond traditional climate action.

報告書年度

2019

発行年月

2020/03

報告者

担当氏名所属

堀尾 健太

社会経済研究所 エネルギーシステム分析領域

キーワード

和文英文
気候変動 Climate Change
欧州連合 European Union
EU予算 EU Budget
サステナブルファイナンス Sustainable Finance
欧州グリーン・ディール European Green Deal
Copyright (C) Central Research Institute of Electric Power Industry