電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)
報告書データベース 詳細情報
報告書番号
Y19003
タイトル(和文)
イギリス・ドイツのローカルフレキシビリティ市場の動向と課題
タイトル(英文)
The issues of local flexibility market in UK and Germany
概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)
背 景
欧州では、急速かつ大量に導入された再生可能エネルギー(再エネ)電源の出力変動が引き起こす想定外潮流により、配電網の過負荷(配電混雑)注1)の増加が懸念されている。配電混雑の解消には、混雑が発生する配電網内の分散型エネルギー資源注2)を活用する方が効率的である。そこで、電力系統の電力品質維持のために、大規模電源からのみならず配電網の分散型エネルギー資源からも、「出力を柔軟に変化させることが可能な能力(フレキシビリティ)」を利用する仕組みであるローカルフレキシビリティ市場(LFM)が検討されている。配電系統運用者(DSO)は、LFM を取り入れることで、設備投資よりも系統運用を重視した混雑管理方策へ移行しつつある。
目 的
欧州の中でも先んじてLFM を導入したイギリスとドイツにおいて、送電系統運用者(TSO)とDSO が、分散型エネルギー資源の調整力を需給調整と混雑管理に活用する仕組みに関する動向調査を行い、LFM の特徴とその導入に際する論点を明らかにし、わが国における将来的な配電混雑管理方策の検討に資する。
主な成果
1.イギリスとドイツにおけるLFM の適用範囲と位置付け
イギリスでは、LFM の実験プロジェクトとして開始したPiclo Flex は、グレートブリテン島の132kV 以下の配電網の管理サービスをDSO が確保するアンシラリー市場と位置付けられる。ドイツでは、大規模再エネ導入対策プロジェクトの一環として、ドイツ北西部のニーダーザクセン州の一部地域の110kV 以下の配電網の管理のため、DSO と分散型エネルギー資源との間で電力量を取引する市場として、LFMの導入を進めている(表)。
2.イギリスとドイツにおけるLFM の流動性増加に向けた対応
イギリスでは、DSOが買取価格をLFM開場前に公開することで、フレキシビリティ提供者の市場への応札数の増加を試みている。ドイツでは、発電可変費が安価だが出力抑制のみ可能な再エネ由来市場と、下げ方向や上げ方向にも柔軟に制御可能な非再エネ由来市場を分けるなど、再エネ事業者と非再エネ事業者がそれぞれの市場に入札しやすい環境整備を工夫している。
3.イギリスとドイツにおけるLFM の今後に向けた課題
両国で共通する課題として、LFM の取引が増加した場合、DSO によるフレキシビリティの活用が、TSOが実施する需給調整メカニズム[1]や送電網の混雑管理の効果を相殺させてしまうことが挙げられる。さらに、フレキシビリティ提供者は、LFM への入札により生じるインバランスにより、不利益を被る場合がある。そこで、ドイツでは、フレキシビリティ提供者自ら、LFM の取引分を当日市場で反対売買するなどの自衛策をとっている。ただし、当日市場価格がスパイクしフレキシビリティ提供者の購入費用が増大してしまうと、反対売買が実施されない。このような状況変化も勘案し、フレキシビリティ提供者へのインバランス対応策の検討が必要である。
今後の展開
わが国でも、市場メカニズムを考慮した配電混雑管理方策という点で、LFM は検討に値する。しかし、流動性の確保に加え、混雑管理と需給調整が相互に阻害しない制度設計が求められる。このため、需給調整の市場メカニズム導入を踏まえた送配電網の混雑管理プロセスの構築に向けた検討を進める。
概要 (英文)
Recently, the mechanism of procurement and activation of "Flexibility" from Distributed Energy Resources (DERs) is discussed among European utilities, network companies and regulators. Flexibility is defined as the ability to adapt to and anticipate uncertain and changing power system conditions in a swift, secure and cost-efficient manner. Flexibility can be utilized for not only managing supply-demand by Transmission System Operators (TSOs) and congestion by TSO and Distribution System Operators (DSOs), but also decreasing imbalance energy by Balancing Responsible Parties (BRPs). When DSOs can procure and activate flexibility from DERs, DSOs may defer the additional investment or decrease the cost for congestion management. Adequate local flexibility market (LFM) should be designed in order to utilize flexibility from DERs efficiently. The LFM requires more effective communication between TSOs, DSOs and market parties to avoid adverse effects of flexibility activation on the respective higher or lower voltage network. We review the pilot project and their procedure of LFM in UK and Germany and analyze cooperative mechanisms between balancing mechanism and congestion management under competitive environment. Although it is too early to evaluate the effectiveness of local flexibility market in UK and Germany as cooperative mechanisms have not been implemented practically yet, the pros and cons of the concept of local flexibility market and cooperative mechanism may help Japanese market reform on how to avoid the conflict between balancing mechanism and congestion management.
報告書年度
2019
発行年月
2020/03
報告者
担当 | 氏名 | 所属 |
---|---|---|
主 |
古澤 健 |
社会経済研究所 エネルギーシステム分析領域 |
共 |
岡田 健司 |
社会経済研究所 エネルギーシステム分析領域 |
キーワード
和文 | 英文 |
---|---|
需給調整メカニズム | Balancing Mechanism |
分散型エネルギー資源 | Distributed Energy Resources |
フレキシビリティ | Flexibility |
混雑管理 | Congestion Management |
ローカルフレキシビリティ市場 | Local Flexibility Market |