電力中央研究所

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電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)

報告書データベース 詳細情報


報告書番号

Y17007

タイトル(和文)

米国におけるガバナンスのあり方から見た原子力発電のRisk-Informed Decision Making(RIDM)に関する一考察

タイトル(英文)

What Constitutes Risk-Informed Decision Making (RIDM)?- Analysis of the US Cases from the Governance Viewpoint -

概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)

背 景
我が国では現在、規制要求への適合に留まらず、自律的な安全性向上のマネジメントを目指すべく、Risk-Informed Decision Making(リスク情報を活用した意思決定:以下、RIDM)の導入に向けた検討が、原子力産業界大で行われている。
目 的
ステークホルダー(特に規制者と事業者)間の相互作用と、そのあり方に方向付けを与える制度・仕組みや理念(本報告では、これらを総称して「ガバナンス」と言う)に着目して、原子力発電分野のRIDMの実践において先行する米国の規制上の意思決定事例を分析し、我が国においてRIDMを定着させていくための有益な示唆を得る。
主な成果
1. 米国におけるRIDM事例の分析
(1) 米国におけるRIDMの特徴
米国の事例を「ガバナンス」の観点から分析し、RIDMとは、決定論と確率論という2つの異質なアプローチを組み合わせ、原子力安全を深化させていくための対立と議論を促す枠組みであると整理した。
その上で、フィルタ・ベント規則をめぐる米国の意思決定の事例を分析した。その結果、対立を内包する証拠群を踏まえて判断に至るための明確な“Justification”をはじめ、複数の規制案をコストも含む複数の観点から評価していること、ステークホルダー間でオープンな論争を行っていることといった特徴が見出された。これらの特徴を踏まえると、同事例は、「コストの定量的評価が決め手となり規制強化が阻止された事例」というよりも、「複数代替案について、原子力規制委員会(NRC)のスタッフや産業界等が科学的妥当性やコストを含む様々な観点から評価し合った結果、意思決定者であるNRC委員会の判断において、NRCスタッフの当初案が正当化(justify)されなかった例」として捉えるべきだと考えられる。
(2) 「ガバナンス」から見た米国におけるRIDMの本質
上記の事例分析を踏まえると、米国におけるRIDMの本質は、明示的な“Justification”、すなわち、複数選択肢の複数観点からの評価と、ステークホルダー間の議論によって、対立する証拠や主張も踏まえながら、オープンな形で意思決定の妥当性を紡いでいく過程の中にあると言える。これを成り立たせている制度基盤としては、NRC内部での「リスク評価情報の提供者」と「リスク管理の意思決定者」の機能的分離をはじめとした制度設計に加え、「適切な防護」とそれを超えた領域とで構成される二層構造の原子力安全規制、他の規制行政一般とも通底する規制影響分析の発展といった要素がある。
RIDMの営みを理解する上では、単に確率論的リスク評価の結果を考慮するということに留まらず、このような制度や理念も含めたパッケージとして、包括的に捉えることが有益である。これは、予め定められた数値基準への適合性のみによって判断の妥当性を示す形をとることが難しく、幅のあるグレーな領域の中での判断を迫られることになるという、リスク問題の意思決定に伴う難しさを克服するために求められる枠組みであると言える。
2.我が国におけるRIDMの確立に向けて
上記の事例分析をもとに、我が国におけるRIDMの確立に向けた課題として以下の6点を示した。米国でNRCが明示的な“Justification”を経て意思決定を行っていることを踏まえるならば、我が国で検討すべき課題としては、社会的なリスク・ガバナンスにおける原子力規制委員会の役割を明確にすることと、リスク管理の意思決定における“Justification”のプロセスをステークホルダーに対して開かれたものにすること、の2点が指摘できる。また、米国が定量的・定性的指標を含む複数観点からの評価を実践していることに鑑みれば、我が国でも、単に安全側の判断を以て妥当とするのではなく、持っている様々な知見を可能な限り活用した、「賢い」意思決定を目指すことが求められる。

概要 (英文)

This report addresses the question of what constitutes risk-informed decision making (RIDM) by analyzing the US cases from the governance viewpoint with focusing on the interplay of relevant actors and the institutional frameworks, procedures and principles which could orientate them. First, this report frames RIDM as a dynamic process of cultivating understanding of nuclear safety through presenting competing arguments by the stakeholders including regulators and industry about the different insights from the deterministic approach and the probabilistic one. A detailed analysis of the case of filtered venting system regulation indicates that the essence of RIDM can be construed as an explicit justification, which can be translated as a process of constructing the validity of risk management decisions through a comparison between alternative options from multiple perspectives with ensuring interactions with relevant stakeholders. In light of these analyses and findings, the report identifies current challenges in Japan for consolidating RIDM as follows: i) articulating the roles and responsibilities of risk managers who should consider all the relevant elements including societal and ethical issues, ii) recognizing the necessity of explicit justification instead of implicit one, iii) seeking for balanced and sound decision-making rather than pursuing rigorous one, iv) addressing the societal concerns towards cost-benefit analysis, and, v) ensuring the interaction with stakeholders in the process of risk assessment and management.

報告書年度

2017

発行年月

2018/04

報告者

担当氏名所属

菅原 慎悦

社会経済研究所 事業制度・経済分析領域

キーワード

和文英文
ガバナンス Governance
リスク情報を活用した意思決定 Risk-Informed Decision Making
判断の妥当性を構築する過程 Justification
費用便益分析 Cost-Benefit Analysis
ステークホルダーの関与 Stakeholder Engagement
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