電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)
報告書データベース 詳細情報
報告書番号
Y17005
タイトル(和文)
米国の電力市場改革と原子力発電の収益性-収益の見通しに関する総合評価-
タイトル(英文)
Electricity Market Reforms and Profitability of Nuclear Power Plants in the U.S.-A Comprehensive Evaluation of Revenue Potential-
概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)
背 景
電力の自由化を進めてきた米国においては、原子力発電が市場で十分な収益を上げることができずに、早期閉鎖に追い込まれる例が見られる。一方で、米国の卸電力市場や容量市場の制度設計は今も改善に向けた見直しが行われている。また、低炭素化に貢献する価値やベースロード電源として安定供給に寄与する価値を適切に評価する必要性も議論されている。これらの実現により、原子力発電の収益が改善する可能性もある。
目 的
米国の卸電力市場や容量市場の制度設計の見直しによる価格上昇の可能性や、低炭素電源およびベースロード電源として、原子力発電が環境や安定供給に寄与する価値が認められる可能性について考察し、米国の原子力発電の収益の見通しを総合的に評価する。
主な成果
1. 卸電力市場の価格形成の見直しとその影響
近年、米国の卸電力市場では、主に運用の柔軟性を持つ電源へのインセンティブを改善するために、市場での価格形成に関する見直しが行われ注1)、それにより、PJMでは、卸電力価格が現在の水準から$3.5/MWh上昇するとしている。原子力発電の収益にとって、卸電力価格の水準は重要であるが、平均的な発電費用の水準(図1)と現在の市場からの収入(図2)を踏まえると、収益の改善効果は限定的である。
2. 容量市場の制度設計の見直しとその影響
米国北東部の容量市場では、容量オークションで落札した電源に対するリクワイアメント注2)の強化を含めた制度設計の見直しが続いている。これにより容量価格の上昇が見込まれ、燃料途絶リスクが小さく、リクワイアメントの達成が容易な原子力発電の収益の改善につながるとの期待もあったが、実際の価格水準はいったん上昇した後、低下が続いており、今のところ収益の改善にはつながっていない(図3)。
3. ゼロ・エミッション・クレジットの導入とその影響
いくつかの州で既設原子力発電所の環境価値に基づいて導入されたゼロ・エミッション・クレジット(ZEC)には、経済的な理由から早期閉鎖のリスクがあった発電所を存続可能にするほどの収益改善効果がある(図4)。原子力発電の救済策であるとして米国内では批判もあるが、温室効果ガスの排出削減の費用対効果は高いとの指摘もある。
4. 電力系統のレジリエンスに基づく費用回収策の提案と今後の展望
エネルギー省(DOE)は、電力系統のレジリエンスに対する貢献に基づいて、ベースロード電源の費用回収を認める制度を提案したが、レジリエンスの考え方が明確ではなく、また、市場の活用を否定する内容だったことから、市場関係者の理解を得られず、連邦エネルギー規制委員会もこの提案を退けた。レジリエンスの強化に関する検討は継続されるが、市場運営者らは既に必要な対策を進めていると考えており、レジリエンスの観点から原子力発電に追加的な価値を認める新たな制度が導入される見込みは小さい。
今後の展開
ベースロード電源市場や容量市場、非化石価値取引市場など、わが国の原子力発電が関わる市場間の整合性や、市場とエネルギー政策の整合性のあり方について検討する。
概要 (英文)
This report discusses the economic impact of electricity market reforms on the profitability of nuclear power generation in the United States. The existing nuclear power plants were thought to be competitive in liberalized wholesale electricity market, where they have been treated equally with other types of power plants. Competitive pressure from the market also facilitated efficiency improvement among the existing nuclear power plants. Although it was difficult to build new reactor, the U.S. nuclear power generators expanded capacity through uprates. In recent years, however, nuclear power plants suffer from the decline in wholesale power prices and some of them are forced to retire early. Market designs for wholesale power and capacity have been in the process of reform to accurately reflect the system's need and these reforms are expected to increase the wholesale and capacity prices. However, the increase in the level of price and economic impacts for the baseload power plants seem to be limited. In some states, zero emission credits (ZEC) have been introduced to support the existing nuclear power plants based on their value of avoiding social cost of carbon, and they indeed help the existing nuclear power plants. Although there have been criticisms that this support scheme distorts market competition, it has been pointed out that this is a cost-effective measure for reducing greenhouse gas emission. In 2017, the Department of Energy proposed grid resiliency pricing and issued a notice of proposed rulemaking. While FERC rejects this proposal, it initiated a new procedure to investigate grid resilience issues. However, it is unlikely that efforts to improve grid resiliency recognize additional value attributed to nuclear power plants.
報告書年度
2017
発行年月
2018/03
報告者
担当 | 氏名 | 所属 |
---|---|---|
主 |
服部 徹 |
社会経済研究所 事業制度・経済分析領域 |
キーワード
和文 | 英文 |
---|---|
原子力発電 | Nuclear Power |
電力市場 | Electricity Market |
収益性 | Profitability |
米国 | United States |
リスク | Risk |